アデコ「派遣先の社員が全員猫だった件」コンテンツの広がりがさらなる展望を生む|後編

総合人財サービスを展開するAdecco(アデコ株式会社/以下、アデコ)では、2023年10月末よりTikTokアカウントの運用支援を行うLeading Communication(以下、LC)とともに「派遣先の社員が全員猫だった」という設定で、猫×ショートドラマを主軸としたTikTokの運用をしています。それにより、平均の11倍にも及ぶ高いエンゲージメント率の獲得や、僅か開設1年で2.7万人ものフォロワーを獲得したといいます。

派遣社員のアデ子さんが入社したおニャンコ商事は、猫社長、猫次郎さん、ネコ美さんという猫しかいない会社だった……というところから実際のお仕事現場でも起こりそうなさまざまなシーンがコミカルに、ていねいに描かれていきます。

開設から1年を超え、「こんな会社で働きたい」など投稿動画には、たくさんの愛あるコメントが寄せられるほど、多くの人の心に響く施策となりました。そんな施策の発端にはどんな背景があったのか、そして動画投稿を重ねるなかで、どのような知見が得られたのか、今後の展望も含めてアデコの菊井直人さん、LCの藤井久志さんの担当者お二人にお話を伺いしました。

企画の始動から試行錯誤の変遷を伺った前編とともに、後編では実際に感じられた手応えやコンテンツの成長と今後の展望をお伺いします。

※こちらは前後編の後編です。前編はこちらから

お話をお聞きしていると、実際に運用されるなかでの知見が蓄積されているのを感じます。これまでにない試みということですが、社内での企画承認や理解はどのように得られたのでしょうか。

菊井 定期的に数値レポートを見ながら、動画の内容を決めていくプロセスを経て、投稿していくこと。それと、TikTokのようにトレンドが、週単位で変わっていくようなものに関しては、その時々のトレンド要素も取り入れながら、承認や理解に関しても、そのスピードに合わせていくことがやっぱり大事です。

藤井 企業アカウント運用の難しさでもありますね。そんななかでもアデコさんは非常に柔軟な対応をしてくださっています。こちらもせっかく作るならばと挑戦的な意見や企画を出しますが、まぁボツになることは覚悟して別案も用意します。結果、おもしろそうだねとわりと自由に企画を通してくださっているという印象が強いです。

菊井 いろいろなプラットフォームのメディアがありますが、おそらくTikTokは僕とは少しかけ離れたところがあるんだろうなという思いがあるので、そこは良い感覚を持たれている方の意見に従いたいなと思っています。逆に、自分の感覚や経験が強みになると思っている領域に関しては、僕も自分の意見を出します。

それは、例えば派遣というお仕事を描く時にこういうメッセージの方が多くの人に届くだろうな、といったところなどでしょうか。

菊井 まさにそうですね。そして、だんだん当初やりたかったことを盛り込めるようになってきているという実感が湧いています。


LCの藤井さん(左)とアデコの菊井さん(右)<写真:筆者撮影>

では、TikTokでのトレンドを取り入れていくあたりの工夫などはありますか?

藤井 ただ単にTikTokで上がってきているトレンドを使えばいい、とはいかないんです。多くの動画で人がやっていることを猫でやると、どうしてもズレてしまいます。そのあたりの見極めは、けっこう難しいですね。

ただ、これまで積み上げてきた世界観とかストーリーは大事にしたいな、と。それから季節のトレンドは世界観になじみやすいです。「あ、春が来たんだ」「夏が来たんだ」という季節にまつわるトレンドを盛り込むのは反応も良いと感じています。

こういうネタを入れてほしいといったオーダーをされることはありますか?

菊井 たまにありますね。たとえば、アデコが「ハケンに夢を。」というブランディングのキャンペーンをやったときに、キャンペーンクリエイティブを動画内にちらっとポスターとして映り込ませることで、連動性を持たせるなどを行いました。他のブランドキャンペーン施策と、このTikTokのコンテンツは切り離して運用しています。

ただ、全国規模でやるメディア施策に関しては、TikTokのコンテンツとの連動性を入れたりすることで、より認知拡大を目指すなどしています。2024年の年末に実施したLINEスタンププレゼントの施策の際も、盛り込んでもらいました。いろいろやってきて、そういう使い方もできるようになってきたところですね。


「ハケンに夢を。プロジェクト」でのOOH展開、同ビジュアルポスターはTikTok動画内にも

「ハケンに夢を。プロジェクト」は交通広告グランプリを受賞されて注目の集まった施策でしたよね。

菊井  はい。メディアミックスで、全然違うものと繋がると気持ちいいですよね。こういうことがもっと実現できるといいなと思います。

ちなみに、LINEスタンプはどういった経緯で。

菊井 これはもともとアデコのLINEの友達登録が50万人ぐらいだったんですが、その登録数を増やそうという施策でした。せっかくTikTokのコンテンツに猫のキャラクターがいるのだから活用しない手はありません。

それで、TikTokアカウント発のLINEスタンプを配信しようとなったんです。結果、87万人くらいまでLINEの友達登録数を増やすことができました。スタンプはイラストですが、TikTokで猫社員を見たことがある人にとっては、そういうことかと気づいてもらえたのではないかと思います。


2024年末に配信された、TikTokアカウント発のアデコLINEスタンプ

数字として見えた効果のひとつですね。他にも運用当初には予想していなかったようなことはありますか?

菊井 正直言うと、目標にしていた数字には実際はまだ届いてないんです。ただ、反応がすごくいいので、僕らもTikTokはじめプラットフォームでの数字の目標や目的はすごく変わってきています。リーチだけではなく、いかに反応してくれてコメントがついて、さらに好意的なコメントであるかというところを見ていこうと思っています。

 

猫次郎さんがくしゃみをしているのに対して体調を気遣うなど、親近感のあるコメントが多いなという印象はありますね。

藤井 あとは、「おニャンコ商事に入りたい」というコメントは多いですね。

ファンクラブができそうですね。おニャンコ商事の社員証とか名刺とかあったら、大人気になりそうです。今後、挑戦していきたいことなどはありますか?

藤井  若年層によく見られているTikTokは、特有のトレンドやリーチするスピードの速さが特徴です。今後はInstagramやYouTubeといった、また違う視聴者層があるところでも発信していきたいです。僕自身も今回アカウント運用をやらせてもらうまでは、派遣の働き方に漠然と不安なイメージがありました。

派遣という働き方の強みやアデコさんのサービス内容などを動画へ少しずつ入れていくうちに、そういうイメージが払拭されていったので、もっと一般の方に広く知ってもらうためにもいろいろな媒体での発信に挑戦できればと思っています。

菊井 派遣社員として働く理由に比較的自由な働き方ができることがあると思います。たとえば役者をしながら派遣をやっているような方も実は多いのです。だからもう少しリアルに、こういう人がこんな働き方をしていますといったところを描いて発信できたらいいですね。アデ子さんが変わっていくのでもいいし、キャストを増やしていくのでもいいし、さらに広がりを持たせられたらいいですね。


新規軸の企画を効果測定しながら、コンテンツの幅を広げています

筋が通っているストーリーがありながらも、裏側動画やトレンドを取り入れた動画といった脇のお楽しみもあり、コンテンツとして充実させていっているからこそ、次のステップへの挑戦の可能性、ということですね。

菊井 現状は、アデ子さんを中心としたドラマパートとトレンドを意識したコンテンツをバランスよく投稿するようにしています。トレンドコンテンツの投稿割合は、喧々諤々と議論したところです。だんだんとそういう割合などの考え方ではなくて、視聴者の気持ちいいタイミングで入っていくのがいいんだろうなと思うようになりました。あんまりガチガチに決めないほうがいいのかなと、これまでの運用経験から感じています。

藤井 そうですね。どうやってもある程度、受け入れてくれる方と受け入れてくれない方はいます。あとはお仕事テーマは、猫動画というフィルターがあっても、受け入れづらいという方がいます。だから、脇の違う動画で、知っていただく、間口を広げる意味合いもありますね。

菊井 昨年テストとして派遣サービスではなくて、当社の転職支援サービスの認知促進を目指して、転職時の面接対応をテーマにした動画を制作してもらいました。面接でどんなことをするのかというのをやってみたら動画の保存率がすごく高くて、意外とこういう動画も求められているんだなと感じました。

実際には派遣サービス以外にもいろいろなサービスがあるところも、ゆくゆくは盛り込んで発信していきたい、と。

菊井  そういうところを加えていくとフォロワーが減ることもあるかと思うのですが、受け入れていただいているのを最近は感じています。コンテンツとしてバランスをうまく取りながら、運用できていることの表れかなと思います。

運用にあたって、どういったところを心がけてやられていますか?

藤井 内容を徐々に変化させていくとか、視聴者に免疫がついていくようなイメージ、ていねいにやることを心がけています。 あとは、作り手としては常に攻めたいんです。僕にも視聴者の気分があって、自分がおもしろいと思えるものを作りたい、と。 ただ、そのうえで企業のレギュレーションやブランディングとのせめぎ合いはありますし、ベストを探る感じです。

いちばん攻めたなと思う動画ってどれですか?

藤井 常にターゲットなどを意識しながら攻めてはいるつもりです。そのなかでも、やっぱりサボテンの動画や「動かない猫ちゃん」といった裏側動画などは、本当にオフのオフで、使わないとは思うけれど「おもしろそうだから撮っておこう」というスタッフの遊び心からスタートしています。撮影の裏側はTikTokでも、その時期流行っていましたし、オフショットの動画は伸びるなと感じました。

お気に入りの一本はありますか?

菊井 「転職面接【給与交渉の仕方】猫の耳うち」という動画、あれはよかったですね。これは僕が作りたかった動画だなと思いました。ちゃんと交渉することで正しい評価のもと反映できるというところを伝えられました。

前職はきっちりと作り込んだコンテンツのテレビ向け動画を制作するの会社だったので、全然違うTikTokのゆるさはとてもおもしろいと感じていますし、それぞれの媒体の良さや役割分担って絶対にあるので、より軽やかに身近なところにフォーカスした動画を作っていただければなと思います。

@adecco_official 給与交渉みんなはどうしてます? #面接 #就活 #転職#給料 #ドラマ #ショートドラマ #アデコ ♬ オリジナル楽曲 – 派遣先の社員が全員猫だった件

 

藤井 Instagramに関しては試験的に運用を始めています。僕も前職ではYouTubeをメインでやっていて、長尺の動画を流すメリットもあると感じているので、そこはぜひチャレンジしていきたいと思っています。

菊井 おもしろいですね、長尺バージョンの動画とか。

藤井 10分くらいのものとか見応えありそうですよね。

菊井 本当に安定した運用というかコンテンツが充実するのに、やはり1年ぐらいかかりました。 おかげでこれから先はより深いテーマも扱いやすくなりました。TikTokは単発の瞬発系の媒体なのかと思いきや、意外と瞬発系動画を積み重ねていくことで、だんだん染み込んでいくんだなというのが僕なりに一連の運用で得られた所感です。

藤井 TikTok上で派遣をテーマにしたコンテンツは、まだまだイメージにネガティブな部分を感じる方が多いと思うんです。それを払拭するという意味では、今回とても効果的で魅力的なコンテンツに成長できていると思いますし、今後もそういったところの強化を目がけて運用継続できたらと思っています。

(後編・了)

2025年3月11日(火)に公開した前編では、企画の始動から試行錯誤の変遷を語っていただいています。※前編はこちら

<インタビュイープロフィール>
菊井 直人(きくい・なおと):アデコ株式会社のブランディング・マーケティング責任者。

藤井 久志(ふじい・ひさし):株式会社LeadingCommunicationのクリエイティブDiv.ディレクターとして実際の動画制作からアカウント運用に従事。

・※関連リリース:Adeccoの「ハケンに夢を。」プロジェクト、『交通広告グランプリ2024』で「メディアプロモーション部門 優秀作品賞」を受賞

・※関連リリース:Adecco、期間限定LINEスタンプの配布を開始(配布は既に終了しています)

(取材・文/見野歩)

その他のインタビュー記事についてはこちら
https://predge.jp/search/post?othres=31
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