ADFEST 2022 グランプリ受賞作品まとめ

1998年に創設されたアジア太平洋地域を代表する広告の祭典、アジア太平洋広告賞(以下ADFEST)が、2022年4月に開催。クリエイティブの新たな可能性を模索した事例から社会課題の解決に貢献した事例など、さまざまな角度から広告の効果を測定し、それを称賛する21部門の内グランプリを獲得した事例を紹介します。

なお、本記事では公式素材が存在したもののみを紹介しており、作品名もADFESTへの申請時の内容に合わせているため、日本国内における作品名とは一部異なる場合があります。

「Camouflage Against The Machines」(Unlabeled, Nexus VII)

👑Digital Craft Lotus部門グランプリ受賞
(デジタル領域において高いクラフト力を発揮した事例を称賛する部門)

Dentsu Lab TokyoとQosmoが共同で立ち上げたテキスタイルレーベルUNLABELEDは、カメラやAI技術によって常時監視されている社会に対する疑問を投げかけるため、AIによるラベリングがら逃れるためのカモフラージュを施したアパレルラインを公開しました。

AIに人として認識されなくなるカモフラージュ柄があしらわれた商品には、特定の柄を加えることで誤認識を誘発するAdversarial Patchと呼ばれる技術が応用されており、これにより任意の対象へのAIの認識を妨げることや、異なる対象として誤認識させることが可能になるとのことです。

UNLABELEDの田中直基氏は、試作の公開時に「タクシーに乗っていたとき、座席に備え付けられているディスプレイに“カメラで性別や年齢を推定し最適なCMを流します”という注釈がつけられていて、機械の中では“見た目の性別”しか存在しないんだな、と疑問に思ったのがきっかけです。私たちは、モノづくりを生業にしているので、この問題に対してなるべく、楽しい手法でメッセージができたらと考えました」とコメント。

クリエイティブとテクノロジーを融合させることで、止まるところを知らない管理、監視体制への挑戦と、ラベリングそのものへの疑問を投げかけたことが評価に繋がったようです。

「Find Your Own Way」(Pocari Sweat)

👑Film Craft Lotus部門グランプリ受賞
(高いクラフト力を実現した映像作品を称賛する部門)

2021年の公開直後に日本国内でも話題を呼んだポカリスエットのブランディング動画が、その高いクラフト力と映像美を評価されFilm Craft Lotus部門におけるグランプリを受賞しました。世界観にマッチした切なくも前向きな楽曲から、メイキング映像で明かされた動くセットの仕掛け、吹き乱れる桜吹雪の様子などをすべてワンカットで撮影した制作技術が受賞へと繋がったようです。

プランナーとして携わった電通の保持壮太郎氏は、CM公開時に「個を描きたい。というのが今期の大きなテーマでした。渇き、迷い、時に立ち止まりながらも、自分の本来あるべき姿に向かって進んでいく。そんな主人公の姿を描きたい。説教くさいのもマッチョな感じもNG。でも地味にはなりたくない。いつも以上にむずかしいお題でしたが、出演者をはじめとするチームの皆さまのご尽力により、素晴らしいアウトプットに仕上がりました」とコメントしています。

「Donation Dollar」(The Royal Australian Mint)

👑Grande for Humanity部門グランプリ受賞
(クリエイティブの力で社会課題の解決を図った事例を称賛する部門)

キャッシュレスの浸透や、新型コロナウイルス感染症の影響で消費活動が下がるなど、さまざまな要因によって国内の硬貨流通量が激減してしまったオーストラリアでは、一般経済活動だけでなく募金に頼る慈善活動やNPO法人の活動が困難になることが予想されていました。そんな状況を打破するために、オーストラリア政府と広告代理店のSaatchi & Saatchiは、国民1人ひとりに$1相当の寄付専用コインを配布しました。

施策の発表後、即座に国民の89.9%相当のリーチを獲得し、SNS上に溢れかえったコメントの99.9%はポジティブな評価を受けることに。世界的にも稀な政府が公式に発行する用途が決まった専用コインは、全国民が寄付を行えば$2,500万もの額が慈善団体に行き渡る計算になることが評価され、社会課題の根本的な解決に貢献する事例として見事グランプリを受賞しました。

「Liquid Billboard」(Adidas)

👑Media Lotus部門、PR Lotus部門グランプリ受賞
(メディアの新しい可能性を見出した事例を称賛する部門、卓越したPR戦略を発揮した事例を称賛する部門)

「世界的に見て32%もの女性が、公共の場で水着を着ることに抵抗感を覚えている。イスラム圏の国においては、この数値は3倍に跳ね上がる」という印象的なフレーズで幕を開ける事例は、信心深い人が多いイスラム圏の女性が胸を張って自由に泳ぐことができる世界を願ってAdidasが開発した世界初の“泳げるOOH”。

同社が新しく発表した水着のコレクションをより多くの人に着てもらうために作られたOOHは、平面でもなく、デジタルサイネージでもない立方体で、なかには大量の水が含まれています。“BEYOND THE SURFACE(自らの殻を破ろう)”と書かれた透明なガラスの中に実際に入り込んで自由に泳ぎ回ることができるようになっています。

宗教的な理由で肌の露出がタブー視されている国において、女性の開放的な姿を象徴的に見せることで彼女らの自由を取り戻すとともに、OOHというメディアそのものの概念を根本から覆した意欲的な姿勢が評価され、グランプリに輝くことができたようです。

「Carbon Thumbprint」(Belong)

👑Mobile Lotus部門グランプリ受賞
(スマートフォンをはじめとしたモバイルデバイスの画期的な活用方法を見出した事例を称賛する部門)

二酸化炭素(以下CO2)を排出しない方法でデータ通信サービスを提供するオーストラリアのBelongは、自社の特長をより多くの人に知ってもらうために、あえて他社の通信サービスを利用した際に排出されるCO2量をAR技術で可視化したスマートフォン用アプリを開発しました。

特定の行為を行うと排出されるCO2の量を指すフレーズ“Carbon Footprint”から転じて“Carbon Thumbprint(スマートフォン操作に用いる親指を表現)”という名前でリリースされたアプリは、普段利用するサービスに関する簡単な質問に答えるだけでどれくらいのCO2を排出しているかを可視化するというシンプルなもの。

動画を1本見るごとに68g、Webサイトを閲覧するだけで1gのCO2が排出されていることをユーザーに気づかせることで、Belongのサービスに乗り換えれば環境への負荷を大幅に下げることができるというメリットをアピール。その結果、Belongは95,000人もの新規顧客を獲得し、年間130,000トン相当ものCO2の削減を実現しています。

「No Pests Allowed」(Goo Go Green)

👑Print & Outdoor Craft Lotus
(プリント広告として高いクラフト力を魅せた事例を称賛する部門)

シリコン製の食品ラップを展開するタイのGoo Go Greenは、一般的に市販されているポリ塩化ビニリデン製のラップと違い、シリコンで作られた製品はどんな害虫も寄せ付けないことをアピールしたOOHを公開。CGのみで制作されたビジュアルは、アリやゴキブリ、ハエをはじめとした東南アジアに生息する多くの害虫の魔の手から食品の安全を守ることができる様子を表現しています。

顔のディテールからラップを掴む爪にいたるまで、害虫の恐ろしさをリアルすぎるCGで再現したことが評価に繋がり、グランプリを勝ち取ることができたようです。

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