ソニー×電通の総合広告会社が生み出した“Motivated Content Design”の考え方とは?担当者に聞く
Case:株式会社フロンテッジ「Motivated Content Design」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・PR事例の裏側を、担当者へのインタビューを通し明らかにする連載「BEHIND THE BUZZ」。
今回は、ソニーと電通が出資する総合広告会社、株式会社フロンテッジが今年1月に提供開始した「Motivated Content Design(モチベーテッドコンテンツデザイン)」にフォーカス。
「生活者の瞬間的な欲求(パルス)を捉え、彼らとブランドとのパーパスドリブンな活動を設計・実行する、SNS時代の統合コミュニケーションのオリジナルソリューション」(プレスリリースより)で、その考え方を元に展開した事例第一弾が、2020年元日の統合コミュニケーション、西武・そごう「『わたしは、私。』2020 -炎鵬の逆転劇-。」となっています。
この事例の考え方や、「Motivated Content Design」の持つ強みなどについて、株式会社フロンテッジ シニアクリエイティブディレクター 上島史朗さん、統合コミュニケーションディレクター 河原敬士さんにうかがいました。
数年前から生まれていた「Motivated Content」の考え方
―まず「Motivated Content Design」の定義について教えてください。
河原:
Motivated Content Designとは、SNS時代の統合コミュニケーションのオリジナルサービスです。Motivated Contentとは、メッセージ・動画・キャンペーン・イベントなどのコミュニケーション活動から生まれた成果物のことを指し、あらゆる登場人物がモチベートされていくものです。
Motivated Contentは、3P(スリーピー)で構成されています。3Pとは、Purpose(パーパス)・Participation(パーティシペーション)・Pulse(パルス)です。Motivated Content Designは、生活者の瞬間的な欲求を捉え、生活者とブランドとのパーパスドリブンな活動を設計・実行します。3Pについては、以下のように定義しています。
1) Purpose (パーパス)
2019年の広告賞はパーパスドリブンな作品群が世界から注目されました。パーパスは、一過性のブームではなく、サステナブルやSDGsをはじめとした社会が成し遂げたい目標であり、企業の存在意義です。Motivated Content Designは、賑やかしのバズではなく、ブランドパーパスから逆上がりした誠実で透明度の高いコンテンツを開発します。
2) Participation (パーティシペーション)
Twitterなどのデジタル空間では、生活者が偶発的に発見した現象、ハッシュタグでつながりあう大喜利など、フォロワーを巻き込んだうねりが自然発生し、集団や運動体を形成しています。Motivated Content Designは、違和感なく生活者がブランドを助け、活動を盛り上げて伴走していく参加型コンテンツを開発します。
3) Pulse (パルス)
スマートフォンの普及と成熟に伴い、生活者の情報判断能力や記憶力、忍耐力は限界まで到達しようとしています。24時間で消えるStoriesやパルス型消費など時間やタイミングを捉えたアプローチが欠かせません。Motivated Content Designは、瞬間的な欲求に呼応し、瞬時にSNSに拡がる波動のようなコンテンツを開発します。
―2017年に研究組織「モチベーション・ラボ」を設立されたとのことですが、「Motivated Content Design」の構想はいつ、どのようにして立ち上がったのでしょうか。
河原:
フロンテッジは、2017年に設立した研究組織、モチベーション・ラボから生まれたメソッド、モチベーションデザインをクライアントに提供してまいりました。その後も、かつてないスピードで変化するデジタル環境や生活者に対応すべく、統合コミュニケーションの現場は常に変質しています。
例えば、バズ施策、バイラルムービー、分散型コンテンツマーケティング。拡散を過度に狙ったBranded Contentを制作し、SNSに流通させ、マスメディアでブランドを刷り込んでいく作業が世の中に溢れています。しかし、生活者は企業都合の情報に踊らされないよう警戒するようになりました(炎上の原因でもあります)。
いま求められているのは、企業から一方通行のBranded Contentではなく、生活者とのCo-Creationを誘発するMotivated Contentであるとフロンテッジ社内で声があがりました。これが2018年ごろです。
2019年夏ころから、Motivated Contentの考え方に近い業務を集約し、体系化していきました。それらの共通項が3P(スリーピー)だったのです。まさに、モチベーションデザインの新しいメソッドが生まれた瞬間です。
2020年1月、発見したメソッドに具体的な提供メニューを加え、Motivated Content Designと名付けました。SNS時代の統合コミュニケーションのオリジナルサービスとしてプレスリリースに至ります。
―「Motivated Content Design」ならではの強み、御社ならではのコンテンツ開発の強みについて教えてください。
河原:
強みは2つあります。「SNSの専門家と仕組みがあること」「ソニーと電通から生まれた総合広告会社であること」この2つを兼ね備えた組織は他にないと考えています。
前者については以下のような強みがあります。
・生活者の無意識レベルの発言から動機を発見する、分析ツールや独自理論
・高速に芽生えていく、小さくとも熱量が深いSNS上のうねりの把握と洞察
・SNSに特化した、複数のシステムベンダーとの連携とテクニカルディレクション
後者については以下のような強みがあります。
・職域の壁のない、水平なチームによる自由闊達なクリエイティブディレクション
・よい解決のために、よい課題を発見することを信条とした、ニュートラルなメディア選定
・ソニーの自発的な学びと実践のDNAと、電通の思考量と質へのこだわりが同居した企業風土
「わたしは、私。」は多面的な解釈ができるよう、慎重に企画を構成
―「わたしは、私。」についてはどのようなきっかけから生まれたのでしょうか。また、「Motivated Content」としての設計をどのように行ったか、お教えいただけますか。
上島:
2016年に樹木希林さんを起用した「ADVANCED MODE」という婦人向けファッションの取組みを担当していました。年齢を重ねた女性のファッションは、もっと自由に、思い思いの個性を表現してもいいんじゃないですか、という提案です。結果とても大きな反響をいただいたことから、ファッションだけではない百貨店のあり方についてクライアントと話していきました。
百貨店が扱っているのは、一人ひとりの生きかたなのではないか。ポジティブな生きかたの提案をどれだけできるかに、百貨店の力は試されてゆくのではないかと。西武・そごうにくるお客さまには、他の誰でもない「私」を大切にしてほしい。そんな思いから「わたしは、私。」という言葉を開発しました。
その意味では、「Motivated Contentという名付けをするよりも前からの取組になります。以来、4年間に渡って「わたしは、私。」というメッセージを伝えてきましたが、常に時代の空気と対話するように設計してきました。その間、「わたしは、私。」は、西武・そごうのコーポレートメッセージとなりました。だから、今回のMotivated Contentに照らすならば、ひとつは「Purpose」になります。「わたしは、私。」というメッセージを持っていた西武・そごうは、「想像以上の提案で、お客さまに発見を。」という企業理念を掲げています。こうした視座をクライアントが持っていなければ、「わたしは、私。」は決して生まれませんでした。
2020年の「わたしは、私。〜炎鵬の逆転劇〜」に限って言えば、逆読みする仕掛けに気づいた人が「偶発的な発見」として人に言いたくなる点は「Participation」に、元日にローンチしたことで2020年の指針にしたくなるような「瞬間的な欲求」を満たすことができたとすれば、それは「Pulse」と言うことができるかもしれません。そうして多面的な解釈ができるよう、慎重に企画を構成していきました。
―西武・そごうさんの反応についてはいかがでしたか。
上島:
自分たちの信じてきたメッセージが、世の中の皆さんに受け入れてもらったことに大きな手応えを感じていらっしゃいます。また、インナーモチベーションとしても機能しており、現場の皆さんから「取引先でも話題になっていて称賛の声をいただいた」などと自社の取り組みに誇りを感じる機会が生まれているようです。
―この事例についての成果や、世の中の声について手応えを感じている点がありましたらお教えいただけますか。
上島:
世の中の空気を見つめつつも、クライアントと共に信じられるものを作ろうと毎回取り組んでいますが、今年の反響はとても大きなものだったと感じています。
学校関係者の皆さんからポスターを授業で使いたいから欲しいと連絡が多数入ったり、1月だったことから成人式で紹介する市長がいらっしゃったり、真偽はわかりませんが自殺を踏みとどまったという声もあったり、2次創作に挑戦される方や、歌にする方がいらっしゃったり、広告という範疇からはみ出た“現象”のようなものを感じることがたくさんありました。
施策のスタートは店舗の閉店など、暗いニュースです。だからこそ、人の心にエネルギーを注げるようなコミュニケーションとなったことが、一番の成果ではないかと感じています。
―今後、他クライアントも含めて「Motivated Content Design」として予定している事例がありましたら、教えてください。
河原:
今後の展開について、具体的な企業名やブランド名は開示できませんが、食品・トイレタリー・自動車・家電・スポーツといった業種のクライアントと業務が進行中です。
なお、すべてMotivated Content Designの業務ではないですが、こちらで業務について随時更新しています。Motivated Content Designをテーマとした公開セミナーなどの情報発信も続ける予定です。今後もMotivated Content Designの活動にご期待ください。
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