話題になった「デビルマンの系譜」はどのように実現したのか?担当者が振り返るプロモーション戦略の舞台裏
Case: Netflixオリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。
今回は、Netflixオリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』の新聞広告・CMプロモーションについて取り上げます。漫画『デビルマン』が原作者・永井豪氏の画業50周年を記念し、湯浅政明監督のもと新作アニメを制作。この『DEVILMAN crybaby』2018年1月5日全世界配信に向け、1月1日の朝日新聞に掲載されたグラフィック広告「デビルマンの系譜」(『デビルマン』が影響を与えたアニメ作品を系譜にして紹介)や、映画『君の名は。』1月3日地上波初放送中のCM放送といった展開が実施され、原作ファンはもちろん、アニメファンをはじめとする幅広い層から大きな反響を得ました。
企画が立ち上がった経緯から、グラフィック広告に込めた狙い、『君の名は。』CM放送がかたちとなった裏側まで、企画実施後の裏話を制作チームに取材。株式会社電通 コミュニケーション・プランナー 吉川隼太さん、プランナー 伊勢田世山さんにお話を伺いました。
「系譜」によって、若い世代に興味を持ってもらう
―Netflixオリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』のプロモーションにあたり、クライアントからはどんなオーダーがあったのですか?
吉川:昨年8月にNetflixが「アニメスレート2017」という発表会を開き、オリジナルアニメ制作に力を入れていくという発表をしました。その中でも渾身のオリジナルアニメである『DEVILMAN crybaby』配信開始をいかに話題化させられるか、という課題をいただきました。
―具体的には、ターゲットとしてどういった層を想定していたのですか?
吉川:原作の『デビルマン』を知らない20代~30代の若い世代をメインに、まずは、湯浅監督のファンなどの現代アニメファン。次に、電気グルーヴやヒップホップアーティストが起用されているので、感度の高いサブカル系の層にアプローチしたいと考えていました。
―どんな思考を経て、「デビルマンの系譜」のアイデアに至ったのですか?
吉川:『デビルマン』と聞いても、あまり興味をそそられない若い世代の人たちにどうやったら振り向いてもらえるのかというのが出発点でした。そこで考えたのが、現代アニメ界全体に対する『デビルマン』の古典的作品としての影響力を示すことで、興味を持ってもらえるのではないかということでした。
伊勢田:以前から、デビルマンがいろいろな作品に影響を与えているということは、デビルマン好きの間では話題になっていました。例えば、服をビリビリと破る演出は、デビルマンから始まったという説があったり、『新世紀エヴァンゲリオン』の初号機のデザインは、デビルマンの紫の模様からインスピレーションを受けているという逸話があったりします。
―そこで「系譜」というアイデアに結び付いたのですね。
伊勢田:以前、アニメ制作会社の系譜がアニメファンの間で話題になったことがありました。そのアニメ制作会社の系譜を見ると、アニメ制作会社がどのような流れでできたのかが分かり、それまでは接点のなかったアニメ制作会社に興味を持つきっかけになります。Production I.Gはタツノコプロから派生してできたといったことが書かれており、Production I.Gに興味のある人がタツノコプロにも興味を持つきっかけになりました。これを『デビルマン』でやってみたらいいのではと考えました。
多くのアニメファンに楽しんでもらい、議論を起こしたい
―「デビルマンの系譜」に掲載するアニメのピックアップについては専門家である海老原優さんにお願いしたそうですね。
吉川:アニメにとても詳しい海老原優さんに監修をお願いしました。系譜は大きく分けて三方向に分かれていて、薬指の「聖書・神話ベース」作品、人差し指の「ファンタジーの強い異世界」作品、中指の「現実世界の延長にある異常を描く」作品です。それら三方向に分け、デビルマンからの影響が見られる作品をピックアップしていただきました。
吉川:約80タイトルです。中には、『聖☆おにいさん』など、つっこまれるのを承知で海老原先生が系譜に入れた作品もあります。このグラフィックには、アニメファンの間で議論を起こし、話題にしたいという狙いがありました。あえて萌え系アニメを入れるなど、幅広く作品を入れるようにして、多くの若いアニメファンに楽しんでいただけるものになったと思います。知っている作品がひとつは載っていると思います。
―どんな反応がありましたか?
吉川:「このアニメの要素があるなら、見てみたい」という好意的な反応から、「何でこの作品が入ってないんだ」「影響受けていないんじゃないか」と「自分はこう思う」という反応もあり、SNS上での議論にまで広げることができたのではないかと思います。
「デビルマンの系譜」の背景知識を詰め込んだWeb記事を制作
―「デビルマンの系譜」については、詳しく解説した記事がWebメディアに掲載されていますね。
吉川:製作協力でメディアのKAI-YOUが入っています。1月1日の新聞広告が出るタイミングで、「デビルマンの系譜」をどんな意図で作ったかが解説されているコンテンツがあった方がいいと考え、タイアップ記事を制作しました(『デビルマン』がなければ、エヴァは生まれなかった? カルチャー史を紐解く)。
―かなり詳しい内容になっていますね。
吉川:「デビルマンの系譜」の背景と、『デビルマン』の分析について海老原先生に語ってもらいました。思いつきで「デビルマンの系譜」を作ったのではなく、海老原先生が見てきたアニメの歴史という背景があった上での系譜であるということを説明できるものにしたかったという意図があります。
その後、『DEVILMAN crybaby』ローンチ日の1日5日にもう1度話題を作ろうということで、タイアップ記事を出しました。雑誌「月刊ムー」編集長や永井豪先生の大ファンを公言する作家さん、アニメライターさんなど、アニメの歴史を俯瞰できる有識者を集めて、「自分だったら系譜図をこう考える」という内容の記事を作りました(【座談会】幽白、まどマギ…『デビルマン』永井豪の落とし子たち)。SNS上で『デビルマン』に対する議論をさらに増やしていくことを目的にPR設計をしました。
『デビルマン』オープニング曲と『君の名は。』の台詞「お前は誰だ」が一致
―『君の名は。』のCMについてお話を聞かせてください。
吉川:『君の名は。』でのCM放送については、Netflixからの発案でした。1月3日の地上波初放送は注目度が高く、さらに、『君の名は。』の作品性とのギャップが面白いのではということで、そこにCMをぶつけてはどうかという話をいただきました。
―CMで使われている「お前は誰だ」というコピーは、『君の名は。』にも出てきた台詞だったので、話題になりましたね。
伊勢田:アニメ『デビルマン』のオープニング曲の有名な歌い出し「あれは誰だ、誰だ、誰だ」というフレーズを活かして、「デビルマンだ」という言葉を強く押し出すことを目指しました。「お前は誰だ」の後に「不動明」「人間?」「悪魔?」「俺の名は、デビルマンだ」というコピーにし、CM映像はアニメのシーンをつないで使っています。
―他の企業のCMも話題になっていましたね。
伊勢田:いざ蓋を開けてみると、いろいろな企業がタイアップしていたり、『君の名は。』に出演している声優さんを使っていたり、「結び」というワードを入れてくるなど、それぞれの企業が『君の名は。』を意識したCMを作っていました。『DEVILMAN crybaby』も、そこに並んで話題になっていました。
―CMについてどんな反応がありましたか?
伊勢田:『君の名は。』のCMがおもしろすぎてトイレに行けないという声が上がっていたり、まとめの記事もたくさん出ました。「デビルマンの系譜」とはまた違った、より広い層へ向けてコミュニケーションできたと思います。
放送できるギリギリのラインを攻めた挑戦的表現CM
―リアルタイムでCMを見ていたのですが、映画と対照的な内容で、インパクトが大きかったです。
伊勢田:正月三が日のタイミングで、家族でのんびりテレビを見ている中で放送するCMですが、、あえて挑戦的な表現を目指しました。『DEVILMAN crybaby』はNetflixでは配信できますが、地上波では放送できない、いわゆる“エログロ”要素が強い、原作漫画の『デビルマン』に忠実な表現になっています。それをもとにCMを構成しているので、放送できるギリギリのラインを探ることには苦労しました。
吉川:アニメCMとして見ても、クオリティの高い名作に仕上がったと思っています。今回は、映像の編集をした後に、さらにVJ(ビジュアルジョッキー)の方3人にお願いをして、映像をかっこよくいじってもらいました。できたものから、それぞれのいいところを採用してCMを作り上げました。
伊勢田:アニメのシーンを普通につなぐのではなく、シーンとシーンの境界で映像のRGBを少しずらしたり、あえて走査線を入れたりすることで、あまり見たことのない表現になっています。ゆるっとした文字の入り方やエフェクトのかけ方にこだわりました。
吉川:CM内にも出ている「トラウマ的衝撃」というコピーがはまり、SNSでのシェアに結びついたという面もありました。漫画の『デビルマン』を読んでいた人は、その内容の残虐さから、トラウマになっているという人がたくさんいます。「トラウマ的衝撃」というコピーによってその頃の記憶が呼び起こされ、シェアしてくれた人がたくさんいたのだと思います。
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