ロゴなしも検討、広告らしさを排除することの可能性——Bill One仮囲いOOHの制作秘話【後編】
経理DXサービス「Bill One」を展開するSansan株式会社が、2025年9月に都内の建築現場仮囲いを活用したユニークなOOHを掲出しました。「立替経費をなくす」というブランドメッセージを「建て替え」が進む工事現場と重ねたクリエイティブを展開したBtoB広告です(PR EDGEの紹介記事はこちら)。
前編では、Bill OneのOOH広告が「立て替え」と「建て替え」という言葉遊びや、工事現場の仮囲いに着目した経緯をうかがいました。後編では、実際の制作過程で検討したアイデアや、企業ロゴの扱い、そして今後の展開について、この広告を手がけた、Sansan株式会社 Bill One事業部 マーケティング部 部長をつとめる松尾佳亮さんにお話をうかがいました。
前後編の後編。前編はこちらから。
——渋谷駅の銀座線ホームへ向かう動線で、この広告を拝見しました。工事現場であることを示す注意書きや、垣間見える重機や作業員の姿と重なることでクリエイティブのイメージ画像とはまた違う、工事を肯定的にとらえているイメージや「未来に向かっている」という印象を受けました。
松尾: ありがとうございます。あえて人目を引くような強い色合いを用いたり、工事現場っぽいデザインにはしなかったんです。最初は、(SansanやBill Oneなどの)ロゴを盛り込まなくてもいいと考えていて、それくらいシンプルで力強いものにする必要がありました。
——企業広告なのに、メッセージだけでいくというアイデアですね。
松尾: いわゆるクリエイティブデザインに関しては主に広告代理店のクリエイティブチームにお任せしていましたが、逆に「ロゴは出しましょう」と提案をうけました。広告っぽさを排除したいと考えつつも、広告であることがとても重要だったのかもしれません。そういったバランスを整えながら、風景に調和しながらも「なんだろう?」と視線を集められるものを目指しました。
——ロゴやサービス名称などのアイコニックな要素をあえてブラインドにすることは、大胆なアイデアですね。
松尾: 我々は結果的にロゴを配したデザインを選択しましたが、自分たちの冠を外しても広告が成立する企業やサービスならできるはずです。そこでさらに、広告へその企業やサービスのファミリーであることを想起させる工夫があれば、広告っぽさがないことが広告効果を高めると思います。
——実際にこの事例にはどれくらいの人が関わったのでしょうか。
松尾: 正直なところ、広告代理店側がどれくらいの人数を投入してくださったのかはわかりかねます。当社からは私ともう1人、マスマーケティングの担当者が関わっていました。
準備期間はCMとあわせてOOH展開をする、と決まったところを起点にすると4カ月くらい、仮囲いのコンセプトが固まってからはおよそ2カ月といったところですね。
——仮囲い以外には、どんなアイデアを検討されたのでしょうか。
松尾: 街を歩く経理担当者に感謝を伝えるメッセージOOHというアイデアがありました。9月は、経営半期の切り替えにあたる企業がとても多い時期ですから、経理業務を担当する方の繁忙期にあたります。めちゃくちゃ忙しいはずです。そのタイミングに営業担当者や購買担当者からの感謝メッセージをOOHで展開して、さらに近隣の飲食店とも連携して、経理業務に携わる人が来店したら、名刺と引き換えに最初の1杯を無料にするという連動企画も考えていました。
——いわゆるインボイス制度とこの1年間戦ってきた経理の方をねぎらって、応援したい気持ちがベースにあることがよく伝わる良い企画のように感じます。なぜ実現させなかったのでしょうか?
松尾: 経理担当者を励ます、感謝するという意味では成立しますが、やはりプロダクトのメッセージを強く打ち出す決め手に欠けました。ここに無理やりプロダクトのメッセージをのせようとすると、広告っぽさが出てしまう感覚がありました。
——寄り添う想いに軸を取るか、メッセージを強く発信するかという取捨選択があったということですね。
松尾: そうですね、前編でもお伝えしたように、経理担当者だけでなくターゲットを拡張してメッセージを打ち出すことのほうが強いインパクトを与えられると考えた結果です。
経理DXサービスを導入して経理担当者の業務効率がアップする、誰にでも想像ができることです。しかし、実際にサービスを導入いただいたお客様からは、社内のセールスパーソンから「立替精算がなくなった」という声も多くいただきます。
Bill Oneのタグライン(プロダクトコンセプト)「経理DXから、全社の働き方を変える」は、職責を経理とする方々だけでなく、すべての経理業務に関わる方々の働き方を変えるというものです。だからこそ、打ち出すメッセージは普遍的である必要がありました。
——OOH展開の反響について教えてください。
松尾: 掲出を終えたばかりのタイミングなので、現時点で定量的なデータは出ていません。定性的なものであれば、広告関連のSNSアカウントなどで紹介していただいたことは確認しています。これまで当社が展開していたOOH事例では起こらなかっただろうと思いますし、定石どおりの展開を選ばなかったからこその反響だととらえて、とても嬉しいです。
——社内やクライアントからの反響はありましたか?
松尾: はい、クライアントとの商談の席で「駅に広告出してるね」と話題にしていただいたというエピソードは営業チームを通じて聞こえてきています。それなりの規模で広告展開をしている企業だという印象にもつながって、安心感をもっていただけているというフィードバックもあり、嬉しいですね。
——やはりtoBサービスである以上、突如としてサービス利用法人が急増することを目的としているとは考えにくいのですが、中長期的な広告効果を狙った施策ととらえて良いのでしょうか。
松尾: 実際には、TV CMも大規模に出稿しましたし、Web動画への広告露出も行っています。マーケティング目線でお話するとWeb流入からのリード獲得という点では短期の効果を見込んでいます。しかし、施策全体としては、ご想像の通り中長期を見越して認知をじっくりと高めていくことを目標としています。
——Sansanといえば、2015年から2023年まで毎年神田明神で行ってきた「名刺納め祭」のように、会社員を応援するユニークなアイデアでビジネスパーソンの認知を獲得してきた印象があります。たとえば広報チームなど、他部署のメンバーと意見交換などは行っているんでしょうか?
松尾: 今回のように大型の認知向上施策を行うときは、広報チームとマーケティングチームで連携して、それぞれの視座で施策をブラッシュアップさせるようなことは行っています。
また、週次でクリエイティブ、広報、マーケティングが集まってのチームミーティングもあるので、お互いにどんなことを、どんなアイデアを持っているのかはキャッチアップしあっています。
——ビジネスパーソンに向けた広告を展開するときに、具体的なソリューションの提示が求められると想像しています。Sansanはリアルな課題とリンクさせながらも、名刺納めのようなユニークさや、今回のOOHのように広告としての斬新さを両立させていますね。
松尾: そういったバランス感覚を強く意識してはいないのですが、普段のマーケティング活動では、社会をめぐる課題や、経理担当者、セールスパーソンがそれぞれ感じている課題などに向き合う必要があります。そこに向けて、どんなメッセージを発信するとアプローチができるんだろうということは常に考えていますが、今回のような広告となるとまた異なります。
このOOHであれば、いかに話題にのぼるか、Bill Oneの認知につなげるかということを追求した結果、仮囲いという広告メディアとしてはまだ無垢な場所にたどり着きました。
「建て替え」「立て替え」の言葉遊びも、これまでのSansanのキャンペーンでの遊び心にも通じることが自然にできたなと感じています。
——掲出期間を月末月初の期間にあてたことは……?
松尾: そこはやはり、経理担当者がもっとも苦しい繁忙期を狙っています。リモートワークが認められていても、経理の人だけは月末月初出社しないといけないっていう状況がある企業さんがまだまだ多いんです。
——このOOHは今回だけのものとなるのでしょうか?
松尾: あくまでその時々の事業戦略に基づきますが、仮囲い広告に関しては、まだまだチャレンジしていきたいです。東京都内だけでの展開だったので、全国の主要都市でも掲出できたらいいですね。たとえば新幹線の主要駅であれば、乗降するビジネスパーソンの多くを出張経費精算が待ち受けていますから。
また、2024年8月に発表した当社の調査では、九州在住の会社員の平均立替件数は32.6件、金額は毎月3.7万円で全国平均を上回っていることが示されています。課題を感じているビジネスパーソンが間違いなくいるので、九州エリアでの実施も目指したいです。
(後編・了 前編はこちらから)
(取材・文 服部真由子)
インタビュイープロフィール
松尾佳亮(まつお・けいすけ)
Sansan株式会社Bill One事業部マーケティング部 部長
2014年にSansan株式会社へ入社。営業職を経験後、インサイドセールス部門の立ち上げを担当。その後マーケティング部にて、マネジャーとしてデジタルマーケティングやオフラインマーケティング施策、テレビCM戦略など幅広く手掛ける。2017年からはSansanが主催する大型イベントのオーガナイザーを務め、コロナ禍ではオンラインイベントにて20,000人を動員。その後、複数の新規事業の立ち上げに携わり、直近ではAI契約データベース「Contract One」のPdMを務める。現在は経理DXサービス「Bill One」のマーケティングを牽引。
その他のインタビュー記事についてはこちら
https://predge.jp/search/post?othres=31
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