テーマは商品愛とおもてなし「おうちで商店街」が提案する新しいお買い物体験|後編

楽天グループ株式会社と株式会社電通は、インターネット・ショッピングモール「楽天市場」において、没入体験が楽しめるデジタル商店街「おうちで商店街 Powered by Rakuten」を、2024年10月7日(月)の「デジタルの日」に合わせて公開しました。

「おうちで商店街」は、特設サイト上でスクロールすると、各店舗の店長やおすすめ商品の情報を見ることができ、実際に商店街を歩いているような没入感のあるお買い物体験を楽しめるというもの。その新しいお買い物体験には関心が集まり、開催中は多くのユーザーが特設サイトを訪れたといいます。

そんな施策の企画はどうやって生まれ、実施へと至ったのか、楽天グループ株式会社の秦さんと西本さんに、お話を伺いしました。

今回は、施策実施後の反響や今後の展望などを中心とした後編をお届けします。企画のスタートからの試行錯誤の過程についてお伺いした前編はこちら

今回の施策は、実際に実施してみての反響はいかがでしたか。

 まず、どういった座組でやっているかということをあらためてお伝えしておきます。オンライン上に商店街を再現した企画になりますが、ただ「商店街を作りました」というだけでは、なかなかユーザーは来てくれません。何かきっかけが必要です。そこで、そのきっかけを作るために、この「おうちで商店街」でしか使えないクーポンを用意しました。

まずはクーポンを「楽天市場」のトップページなどから入手してもらい、そのクーポンが使える場所へ遷移してもらうという流れから、実際のサイトでの没入感を味わってもらう、こういう構えでやっています。クーポンはすべて予定した利用上限数に想定期間よりも早く達したので、我々としては想定以上の反響をいただいた結果となりました。

クーポンは取得の数、ではなく、利用の数ということですか?

 そうです。利用の数です。クーポンを利用してもらう数が想定より多く、じつは足りなくなって何回か追加もしています。

そのクーポンは、どのようなところからアクセスできるとかの工夫はされたのでしょうか?

西本 「おうちで商店街クーポン」は、店舗の皆さんが商品ページに貼ってくださったり、外部のサイトなどにもバナーを出したりで実際のおうちで商店街サイトへの誘導を図るなど、特別な工夫はしていませんでした。

 おうちで商店街トップページに入ってくると、まずはこの企画の概要となるキーメッセージが表示されて、さらにここで使えるクーポンが用意されているので、取得して実際のおうちで商店街に入って利用してもらうという動線でした。

まずは、外部の広告や楽天市場内のバナーなどから知ってもらって、興味を持ってアクセスした人が実際に入場するきっかけがクーポンです。

もちろん、クーポンがなくても一定以上の方に入ってもらえるという可能性はあったのですが、やっぱり我々としてはより多くの方に入ってもらって没入体験をしてもらい、そしてご協力くださった店舗さんの魅力や頑張りをお伝えしたいという思いがありました。当然やるのとやらないのでは、大きく数に違いが出ることでもあったので、やることを選びました。

おうちで商店街の特設サイトよりキーメッセージ

ちなみにクーポンの発行枚数などの数字はお聞きしても良いでしょうか?

西本 第1弾から第3弾まで、1万枚、1万枚と発行していって実際に利用された総枚数が2万5千枚となっています。そもそも第何弾みたいなことは想定していなかったんです。

ですが、第1弾の1万枚が、まさかの2日間でなくなってしまったんです。それはもう、「え!? 反応良すぎ」って思ってました。1ヶ月くらいの企画なのに最初の2日間で無くなってはせっかく来ていただいたユーザーさんに申し訳ないので、第2弾も1万枚を追加しました。しかし、それも2週間くらいで無くなってしまって、電通さんからも企画の半分くらいの期間が残っているのに、もう無くなってるのはもったいないのでは……とアドバイスをもらい、店舗さんからもお声をいただいて第3弾が決定しました。

第3弾は企画の最後までもちましたが、結果として約2万5千枚となりました。クーポンは基本的に3,000円以上のお買い物で使える条件ですが、ぴったりでお買い物をするということはないので、枚数掛けるその金額分はしっかりと使っていただいて、多くの人たちに体験していただいたという感じです。

追加に追加を重ねることになった第3弾クーポン

想定以上の反応があって嬉しい反面、追加のクーポンを用意しなければならないというご苦労もあったわけですね。

西本 そうですね。クーポンは、ユーザーさんが楽しんでいただけたという反響ですが、店舗さんからの反響も重要です。終了後に出店したみなさんへアンケートを実施しまして、かなりの好評価をいただいています。次は決まってないですが、「もし次やるとしたら参加されますか」という設問に、現時点では「ぜひ参加したい」という回答が100%です。今回の企画に満足いただいているという回答も非常に多かったです。

あと、やっぱり嬉しいのは、店舗さん同士で「見たよ」といった店舗同士のコミュニケーションが楽天市場の中であったということですね。そういった反響も大きかったと聞いています。また、同じように嬉しかったこととして、ユーザーさんから店舗さんへの連絡があったということです。例えば、「おうちで商店街を見て買いました」とか「実際の店舗にも行ってみたいです」といったようなメッセージがあったそうです。

伊勢崎町商店街の川本屋さんからは、地域の商店街でQRコードを見た人からの反応も多く、「楽天市場への参加についての話を聞きたい」という声もあったと回答いただいています。

 今回のプロジェクトは、大枠は商店街を楽天で作りますっていうことなんですが、リアルな商店街ともコラボできたらより良いよねって話があったんです。

そもそもの商店街の課題の一つとして、シャッターが閉まっているお店がある商店街が増えているということがありました。そことの連動みたいなものができると企画としておもしろいんじゃないか、と。

そこで、オンラインでやっているおうちで商店街をリアルな商店街のシャッターにQRコードを掲出することで宣伝する場として活用しよう、ということになりました。

リアルな商店街に掲出されたおうちで商店街のQRコード

シャッターであることを逆手に取って活用されたのですね。

 はい。そして、こういうことをやっていると、楽天と商店街が一緒におもしろいイベントやってるっていうチラシが貼ってあるよ、と口コミで広がっていきやすい。そうなると、商店街自体にも人を集めることができる、と。

我々はオンラインだけれど、リアルな商店街への集客にもつながったらおもしろい。実際にどこまでの効果があるかはわかりませんが、取り組みとしてやってみる価値はあると思いました。効果について数値的なところまでは追えていませんが、実際にご協力いただいた店舗さんからはいろいろな声をいただいていますから、やって良かったなと思っています。

店舗さん同士もそうですが、ユーザーと店舗さんも含めて、さまざまな形のコミュニケーションの場になったというのが素敵ですね。最初に目がけておられた買い物体験の実現の先があったという気がしていますが、この先の展開としてやってみたいことなどはありますか?

 現時点で、すぐに第2弾というところまでは決まっていません。やりたかったけれど時間的な制約や予算的な制約で今回実現できなかったことがいくつかあります。

そのうちの一つとして、音声を活用することにチャレンジしたかったんですよ。おうちで商店街では、商品の紹介とともに店長さんの思いがメッセージとして読めるんですが、これを実際に店長さんの声で話をしてもらうと、よりリアル感が出せるなと思ったんです。実際には断念しましたが、いずれやってみたいところではあります。

もう一つは、双方向でのコミュニケーションです。「どれがおすすめですか?」「これがおすすめですよ」「なんでおすすめなんですか?」というようなコミュニケーションが実現すると、よりリアルなお買い物体験に近づけられます。それに近しいものとして、2日間限定でしたが4店舗が参加するライブコマースを実施しました。音声や双方向のコミュニケーションというところを表現できるものとしてやったんです。

逆にいうと、参加店舗のうち4店舗さんしか実現できなかったのと、ライブコマースは別会場になってしまうということもあって、こういったライブ感や人からものを買うという体験を一つの場で実現できる方法は今後の課題として、いつか実現できたらいいなと思っています。

コメントとライブ配信により双方向コミュニケーションを実現したライブコマースの様子

たしかに使う側からすると一つの場所で完結してくれる方がありがたいですが、それを実現できる技術面などの制約は乗り越えないといけないハードルでもあるのですね。

 音声に関しては、入れることは可能でした。ただユーザーさんの使用シーンを考えた時に、スマホ利用を意識して作っていました。スマホだと外出先、例えば電車移動中に触ってアクセスしているということも十分考えられるわけで、そうなると音声は必要ないかもしれないですよね。

店舗さんや企画側に立つと音声は出したいんですけれど、ユーザー目線に立つと邪魔になる可能性もあることを細かく考えながら今回は選定してきました。ただ、人柄を伝える上では音声はすごく重要な要素なので、何らか盛り込めるような形を模索したいと思っています。

初回だからこそ、全部盛り込むのではなく必要要素を絞り込んで実現させたのですね。今回の実施を経て、それぞれここはお気に入りポイントだとかもっと改善の余地ありだなと思われた点があればお聞かせください。

西本 電通さんがこだわっていたのが「コト体験」でした。商店街を歩いていると物を買う以外にもいろいろなことが起きると思うのですが、そういうところを表現していきたいと話されていて、我々としても企画コンセプトに賛同して始めた施策でした。そこをしっかり表現できたことがいちばん良かった点だと感じています。

最初に入ると蕎麦屋さんの出前姿がサーッと流れてくるとか、写真屋さんが出てきてタップすると写真を撮ってくれるといったような買い物と全然関係ないようなことまで表現されていました。本当の商店街を歩いているような、買い物をしているんだか楽しい体験をしているんだか没入しているのかとか、良い意味でその境目を感じなくなるような仕掛けにできたところが気に入っています。

 ゲーム感覚に近いような感じでユーザーに楽しんでもらえるものに仕上がったなと思いますね。

実際の店舗以外にも商店街の楽しさを感じさせる仕掛けがあちこちに

たしかに、すごくエンタメ性を感じました。

 そうですね。進んでいくのが楽しくなるという感覚は、なかなかECというチャネルだけでは表現できなかった部分なんですよね。実際、何回も電通さんと話をしていて、デモも細かく確認させてもらって、「ここはこうなりませんか?」というやりとりを経て完成したものなので、こだわりの詰まった部分です。我々のやりたかったことをきちんと実現できたという達成感もあって、スクロールさせずに商店街らしい1本道の動線を描いた点や、UIやUXは非常に満足のいく仕上がりでした。

実際におうちで商店街を訪れた方は長い時間滞在してくださっていたので、お買い物した人もそうでない人も、この新しい体験を楽しんでくださったのかなと思っています。自分の周りでも、訪れてくれた人から、この企画がなかったらこの商品を買ってなかったという声があったりして、新しい店舗さんとの出会いのきっかけになったことが実感できて、すごく嬉しかったです。

もちろん、参加してくださった店舗さんがおうちで商店街を宣伝してくださっていたので、既存のユーザーも多く訪れてくれたとは思いますが、一方で新規のユーザーと店舗さんが出会うきっかけ作りにもなっていたと思います。数値的なところではありませんが、そういった感触を店舗さんからもフィードバックいただいているので、当初目がけていたところは一定以上は実現できたのではないかと思っています。

西本 一方で、より多くの店舗さんの魅力をリアルタイムに伝えられない点は課題です。魅力を伝えるというのは今回店舗画像とテキストだけでしたので、動画やライブコマースなどに発展させていく必要を感じます。

あとは、開催期間中の更新も課題ですね。店舗さんが更新したい時、必要に応じて情報を発信してユーザーに届けられる仕組みにするといったリアルタイム性。さらに、テキスト以外の多様な伝え方といったことが組み合わせていけたら、もっともっと魅力的なものにしていけるのではないかと思っています。

 開催に向けて生まれたアイデアで実現させなかったもので、ユーザーが商店街に入って進んでいく時のお楽しみ要素として店舗の表示順を都道府県をモチーフに置いたらいいのではないかというのがありました。

北は北海道から南は沖縄までの店舗を取り揃えているので、北海道を過ぎたら東北のお店になって、次は関東に入りますというような、進んでいくとエリアの地域性が感じられる要素を盛り込んでみたかったんです。例えば、大阪エリアに入ったらたこ焼きが見えてくるといったようなイメージです。

より奥に進んでいくことが楽しくなるような仕掛けを用意したかったのですが、最終的にそこは議論を重ねて取り入れるのが難しいと判断したんです。

西本 東西南北どこから始めるのかとか、上から順番にいくと最後まで行けるのかなど、出店側にもメリットのある良い方策が出せず盛り込めなかった要素ですね。

ちなみに、今回のお店の表示の順番は固定なのでしょうか?

西本 はい、固定ですね。ランダムにできたら良かったんですが。

 そう、ランダム表示もやってみたかったことですね。

なるほど。奥の方まで進まないと出会えないお店と、入ったらすぐに出会えるお店とっていうところがあったのですね。

秦 はい。それで今、お話していて思ったんですが、あえて奥まで行かないと出会えない仕掛けというのがあっても良かったかもしれないですね。

最奥まで行ってみたくなる、お楽しみ的な仕掛けですね。

西本 じゃあ、次はクーポンを奥に置きますか!(笑)

 奥まで行かないとクーポンもらえない、と(笑)

中間地点でも何かがもらえて、奥に行ったらクーポンがもらえるとなると、とたんにダンジョン感が増しますね。

 あとは、電通さんのアイデアですが、写真館の取り組みができないかというのはありました。商店街に行くと、写真館を見かけることも多いですよね。お買い物ではありませんが、「記念撮影しませんか」と投げかけて、アクションしてもらえる仕掛けがあると、より商店街っぽさが増すのではないかということは話していました。

それもいろいろな兼ね合いがあって、今回はできなかったですが、お買い物をするだけではない、アクションポイントを増やすことで入ってきたユーザーの体験価値を高めてくれる、盛り上がれる要素になるのではないかとは考えています。

左から秦 俊輔さん、西本 佑介さん

まだまだ、盛り込みたい要素がたくさんあって、決まってないとはいえ次回以降の開催も期待したくなりますね。

西本 やっぱり「Shopping is Entertainment !」が弊社のコンセプトですし、やっぱり楽しい買い物体験をユーザーにもたらしたいという思いがあります。

その楽しい買い物体験のコアを作っていくのは楽天市場の店舗さんの多様性です。そこをしっかり表現して伝えていくかという意味で、今回は電通さんとともに良い取り組みができたなと思っています。

 僕が伝えたいキーワードは「メディア楽天」という言葉です。どうしても楽天市場って買い物する場なので、僕らの部門で取り組みをする際にいかに売るかということが主眼になってしまいます。

ただ、昨今のユーザー行動を見ていると、必ずしもお買い物行動だけのために楽天市場を利用しているわけではないと感じているんです。ランキングを見にくるとか、何か楽しいイベントをやっていないかチェックしにくるとか。今回のおうちで商店街も同じように、楽天市場に訪れた際に何か企画やってるぞと認知してもらって、その場では買わないけれども、情報を取得してもらうという観点もあるなと思っています。

そうしてみると、楽天市場そのものにメディアとしての力が強まっていると思いますし、もっと強めていくということをやっていきたいんです。ただ、お買い物をするだけじゃない価値を世の中にもっと発信していくという意味では、今回の施策にはそういう側面もあったかもしれません。実績はクーポン利用という数値になっていますが、実際にはお買い物をしなかったけれども、おうちで商店街に訪れた人もたくさんいらっしゃいます。

それは、楽天市場にある店舗さんや商品の認知に繋がっていますし、そういった意味ではメディア的な機能を果たせた施策です。「メディア楽天」、メディアとしての価値がある楽天市場を世の中に発信し続けていきたいと思っています。

(後編・了)

1月7日(火)に公開された前編では、企画のスタートからの試行錯誤の過程についてを中心とした施策の裏側を教えていただきました。前編はこちら

<インタビュイープロフィール>
秦 俊輔(はた・しゅんすけ):楽天グループ株式会社 アカウントイノベーションオフィス ヴァイスジェネラルマネージャー。今回のプロジェクトの責任者として参画。
西本 佑介(にしもと・ゆうすけ):楽天グループ株式会社 アカウントイノベーションオフィス ビジネスクリエーション課 ヴァイスシニアマネージャー。今回のプロジェクトでは、楽天市場の責任者として参画。

・※関連リリース:楽天と電通、没入体験が楽しめるデジタル商店街「おうちで商店街 Powered by Rakuten」を「デジタルの日」に合わせて期間限定で公開

(取材・文/見野歩)

その他のインタビュー記事についてはこちら
https://predge.jp/search/post?othres=31
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