【速報】カンヌライオンズ2024「Experience」部門グランプリ受賞作品まとめ

2024年6月17日(現地時間)からフランス・カンヌで開催されている「Cannes Lions 2024」。ユーザー体験やビジネスにおける慣習に変化を与えた作品に贈られる「Experience」部門において、ユーザーのブランド体験を斬新な形でアップデートした作品を評価する「Brand Experience & Activation Lions」、クリエイティブを駆使してビジネスのあり方を変えた作品を評価する「Creative Business Transformation Lions」、販売という観点において新たな道を指し示した作品を評価する「Creative Commerce Lions」、新規性のあるクリエイティブで話題を生み出した作品を評価する「Innovation」、独特の世界観を構築するラグジュアリーブランドのコミュニケーションの中から斬新なアプローチを見出すことができた作品を評価する「Luxury & Lifestyle」の5つの賞におけるグランプリをご紹介します。

Brand Experience & Activation Lions

The First Edible Mascot(Pop-Tarts)

アメリカを代表する菓子ブランドの一角を担うPop-Tartsは、発売当時こそ朝食用の商品として売り出されていましたが、人々のライフスタイルが変わる中で近年朝食としてではなく間食用のスナックとしてリブランディングを行いました。アメリカでスナックと言えば、スポーツ観戦のお供。リブランディングを決行したPop-Tartsを待ち受けていたのは、さまざまな菓子メーカーがすでにスポンサーとしての枠を押さえ切っていたレッドオーシャンでした。この状況を打破するために同社が行った前代未聞の事例が、ブランド体験の新たな価値を見出したとしてグランプリを受賞しています。

まずPop-Tartsが着目したのは、多くの国民が注目する1大イベントであるカレッジフットボールの大会。他のスポンサーがマスコットキャラを通じて会場内での積極的なコミュニケーションに努める中、Pop-Tartsが発表したマスコットは意外なアプローチを取ることでSNS上で爆発的なバズを巻き起こしたのです。その手法とは、“マスコットそのものを食べられるようにして、試合前に登場して挨拶したかと思えば試合後にはトーストされた状態で選手たちに食べられてしまう”というもの。

かわいいマスコットを、試合後には“死んで”しまう存在として刹那的な表現にSNSユーザーは大盛り上がり。このニュースはさまざまなメディアで取り上げられることで40億ものインプレッションを叩き出し、施策実施前後で比較して+2,100万個もの売上に貢献。カレッジフットボール史上最も高い成果を挙げたマスコットキャラクターとして、形こそ残らないもののその名だけはフットボールファンの記憶の中で生き続けることとなりました。

Creative Business Transformation Lions

Refurb(Philips)

クリスマスシーズンやブラックフライデー、誕生日をはじめとしたギフト需要がとにかく高い現代において、いらないギフトをもらってしまった人がその商品を1度も使うことなく廃棄してしまった結果、ゴミ処理場の負担が大幅に増えてしまっていることが社会問題に発展しつつあります。返品やリサイクルという選択肢もありますが、顧客目線ではレシートが必要だったり、メーカー目線に立ってみても回収した商品を検品・修復し再度販売するよりも同じ商品を新しく作る方がコスト的にも負担が軽いというジレンマがあり、中々にハードルが高いのが実情です。そんな中、日本の家電量販店でおなじみの電機機器メーカーのPhilipsが行ったリユース施策が見事グランプリを獲得しました。

Philipsが刷新したのは、不要となった電機製品の回収方法ではなくその販売方法でした。ギフト需要が高まるシーズンに合わせて、同社が運営するECサイトでは新品ではなく返品されてしまったリユース品のみを販売。新しいものを買うという選択肢を最初から排除することで、顧客側の行動を絞り込んだのです。

リユース品として販売された品々には新品よりも長い保証期間が設けられており、顧客側にもしっかりとメリットがある座組に。“Better Than New(新品よりも良い)”というキャッチコピーで宣伝を行うことで、リユース品についてまとうネガティブなイメージも払拭した事例は、52,000個ものリユース品を即座に売り切り、185トン相当もの粗大ゴミの排出を事前に防ぐことに成功しました。多少高くつくコストを気にすることなく、販売方法そのものを変えた企業努力や斬新な着眼点が評価され、グランプリの座を手に入れることができたようです。

Creative Commerce Lions

Cars to Work(Renault)

今フランス国内では、移動手段が原因で職に就けない人が増加しつつあります。一説によると54%もの求職者が“職場までの交通手段がないから”という理由で仕事を断った経験があると答えており、特に都市郊外や田舎のエリアに住んでいる人々に適切な交通手段を与えることは経済の発展へと直結するという見方もできるでしょう。そんな状況を変えるために大手自動車メーカーのルノーが広告代理店グループのPublicisと実施した新しいサービスがグランプリを獲得しています。

“Cars to Work(通勤のための車)”というタイトルが付けられた施策は、働くために自動車を必要とする無職の人を対象に、ルノー車を買う場合は仕事が見つかるまではローンの支払いを免除するという内容。仕事をするためには車が必要なのに、車を買うためには仕事が必要……そんな負のジレンマを解決することが目的です。

交通手段さえ確保できれば自身のスキルを活かすことができる……そんな困っている人に直接手を差し伸べ、ローンの返済期間を先延ばしにするというビジネス上の決断を行うことができた勇気、そして経済全体を活性化させようと試みた点が評価へと繋がったのではないでしょうか。

Innovation Lions

Voice2Diabetes(KVI Brave Fund)

インドは世界2位の糖尿病大国だということをご存知でしたか? 人口が多い分経済への影響だけでなく、将来的には医療現場の負担増も懸念されており、特に田舎に住む低所得者の早期検診と治療が求められています。そんな状況を解決するため、医療機器メーカーのKVI Brave Fundが開発した画期的な糖尿病の診断方法とそれを広めた啓発事例がグランプリを獲得しました。

同社が開発した画期的な診断方法とは“Voice2Diabetes(声帯からの糖尿病診断)”というタイトルからもわかるとおり、スマートフォンに自身の声を録音し、それを送信するだけで自身が糖尿病に罹っているかどうかを診断することができるというもの。周波数をはじめとしたさまざまなデータを収集、解析することで、女性は89%、男性は86%の正確性で糖尿病かどうかわかるというのです。

この診断方法が確立され世界中で使われるようになれば$330億もの診断コストが削減できるとされ、それ以上に“スマートフォンは持っているのに糖尿病の検診を受けようとしてこなかった多くの人々”の命を救うことが期待されています。情報格差のバリアーを突破し、命に関わる知識へのアクセシビリティーを大幅に向上させた点が評価され見事グランプリを受賞することができたようです。

Luxury & Lifestyle Lions

Loewe x Suna Fujita(Loewe)

スペイン生まれのラグジュアリーブティックLoeweは、自社のオリジナルデザインだけでなく世界中で活動しているさまざまなジャンルのクリエイターとの共創を大事にしているブランドとして知られています。そんなLoeweが京都府を拠点に夫婦で活動する陶芸制作ユニットのスナ・フジタとタッグを組み、商品開発から店舗デザインまで、顧客体験にまつわるあらゆる面で唯一無二の世界観を作り上げた施策がグランプリの座に輝きました。

2024年のSSコレクションとして登場したスナ・フジタラインは、2人が作り上げる繊細で独特な温かみのあるキャラクターたちをモチーフに洋服やバッグ、アクセサリーからルームキャンドルまで、さまざまな商品へと昇華させました。さらに店舗の内装や外装、ノベルティーとして配られる商品やプロモーション用に制作したストップモーション動画を含む周辺施策まで、顧客との接点すべてをスナ・フジタの世界観で統一。

徹底したブランディングの下公開されたLoeweの新たな装いは、欧州発のブティックとしての世界観をしっかりと守りつつ日本ローカルなクリエイターユニットのものづくりに対する哲学を最大限尊重することで、今まであったようでなかった、斬新でありながらも温かい施策となりました。グローバルな美とローカルな美をそれぞれ独立したものとして描くのではなく、見事に融合させ昇華させたアプローチが評価へと繋がったようです。

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