日本の美しい写真が話題に「PHOTO METI PROJECT」が目指す、ストックフォトサービスのその先とは
Case:経済産業省『PHOTO METI PROJECT』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。
今回は、経済産業省が2016年8月4日にオープンしたウェブサイト『PHOTO METI PROJECT』を取り上げます。
国内外に向け、日本の魅力を写真で伝える観光オープンプラットフォームとしてスタートした本プロジェクト。全国津々浦々にある景勝地や祭りなどの伝統行事を、息を呑むほど美しい写真で紹介するとともに、そのエリアの観光情報を、観光に関連するデータを提供する『観光予報プラットフォーム』と連携しながら発信しています。本ウェブサイトの制作秘話や今後の展望を、プロジェクトを手がけた、株式会社ライゾマティクス クリエイティブディレクター 有國恵介さん、アートディレクター 木村浩康さんに伺いました。
リオオリンピックでの展示企画が、プロジェクトの発端に
―まずは、プロジェクトのいきさつをお聞かせください。
木村:もともとの発端は、リオオリンピックなんです。経済産業省より、オリンピック開催中に設営するジャパンハウスのなかで、写真を使って日本を紹介できるコーナーがつくれないかという相談がありまして。とはいえ、オリンピックのためだけに制作するのではなく、東京オリンピックを視野に別途経済産業省が進めている『観光予報プラットフォーム』との連携が図れないのかなど、様々な思惑がありました。
そこで、まずは写真をベースにしたウェブサイトを立ち上げ、中長期的な視野で発展させていく方向で話がまとまりました。ゆくゆくは、2020年に向けてインバウンドを獲得し、日本の各地域のファンになっていただくこと、様々なところに何度も訪れたいな、と思ってもらうことがゴールなのですが、前段としてまずは、日本に行ってみたいと思ってもらうことが、本サイトの目的になっています。
―美しい写真が、美しい音楽とともに流れていく様子は、日本人であってもうっとりします。
有國:写真は、まだ51枚しか収めていないんです。リストにして並べれば一覧化できる量なので、1枚ずつゆっくり見てもらうためには、という視点から今の形にしています。ジャパンハウスで流すことを前提にしていたので、半動画的なコンテンツとして扱うことで、飽きずに楽しめることを目指しました。楽曲も写真の裏にある情景や情緒を感じていただきながらも、聴いていて心地よいサウンドを目指しました。
―ところで、写真はどのようにして集めたのですか?
有國:経済産業省が「2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合」に依頼したほか、『観光予報プラットフォーム』を手がけるJTBさんにも協力を仰ぎました。ただ、写真が全都道府県から集まるのだろうか、ボリュームやクオリティはどの程度なのかなど不確定な要素も多かったので、クオリティの高い写真をいかにきれいに見せるかをベースにサイトの構成を考えました。
―想像するだけで骨が折れそうですね。
有國:そうですね。今回、写真の収集・選定が一番大変でした。解像度が足りない、写真の向きが様々、クオリティも今回の趣旨と照らすと劣るなど、なかなか条件に合うものがなく、結局集まった7,000枚のうち、公開できたのは51枚だけ。各首長さんには、「本当にいい写真を1枚でよいのでください」と改めてお願いするなどしつつ、どうにか集めることができました。
木村:大変といえば、クリエイティブコモンズでダウンロードできるようにしたことにも労を費やしました。ライセンスをどのレベルで設定するのかを弁護士の先生に相談しながらリストにしつつ、権利的にOKなのか確認を取っていくのですが、なかには個人が撮影した写真もありますので、各自治体に条件がクリアしているのか照会したり、クリアしている写真を送ってもらえるよう依頼したりしながら進めていきました。写真を扱うコンテンツにするのであれば、ダウンロードできることは、大前提だと思っているので、この部分には、とことんこだわりました。
ライターによるサイト紹介を機に、認知度が拡大
―そのようなプロセスを経て、8月4日のローンチを迎えることになるのですが、外部に向け告知はされたのでしょうか。
有國:いえ、やりたいことがこの先にもたくさんあるので、ここで区切るイメージはありませんでした。なので、認知もじわじわと獲得できればいいかな、と。ローンチからしばらくは、リオにいる人しかサイトの存在を知らなかったと思います(笑)。
―関連記事の公開日を見ると、9月以降が多いように感じます。きっかけはあったのでしょうか。
有國:ライターのモリジュンヤさんが紹介してくれたんです。それから徐々に認知されていきました。モリさんは、自分がよいと思うものしか紹介されないので嬉しかったですね。
木村:ですが、どの媒体でもストックフォトサイトとして紹介されていたので、エゴサーチをしていると、「ストックフォトなのに、なんでこんなに使いづらいんだ」という声が結構あって。確かにその要素が強いので、仕方のない部分はありますが、眺めて楽しんでもらうことも一つの目的になっています。そこをご理解いただけるとうれしいです。
とはいえ、記事中でクリエイティブコモンズライセンスについて詳しく説明してくださったことは、とてもありがたかったです。これまでは使えることを知らなかったり使いかたを間違っていたりと、認識があいまいな印象が強かったので、これを機会に世の中のクリエイティブコモンズリテラシーが上がったように思います。
―ユーザーの反応はいかがでしょうか。
有國:「この写真を選んでくれてありがとう」「カレンダーにしたいから元データがほしい」など、色々な反応をいただいています。なかでも「どうすれば、『PHOTO METI』に載せてもらえるのか」というアマチュアカメラマンからの問い合わせには、今後応えていきたいですね。というのは、プロの写真家の作品は、その人に権利があるので、こういう形で公開ができませんが、アマチュアの方は権利云々よりも、写真を使って地元を広めていきたいという思いのほうが強いんです。その思いの部分と『PHOTO METI』の企画は、うまく合致しているように思っているので。
木村:写真家の方がおっしゃっていたのですが、プロのカメラマンが限られた時間しか、その場にいられないのに対し、地元のカメラマンはずっとそこにいて撮影に没頭できるので、良いショットが必ず生まれるのだそうです。そして、それには作家性が含まれていない場合が多い。そういった意味でも地元の方からいただいた写真をクリエイティブコモンズライセンスで配付していくことは、とても相性が良く、理にかなっているんです。
有國:今後は地域の方が、『PHOTO METI』に写真が載ることを喜ばしいと感じてもらえるようなモチベーションをいかに形成していくかが、プロジェクトの肝になると思っています。その方法として、著名写真家に選定をお願いする、賞を用意するなど、色々な施策を検討しているところです。
ゆくゆくは、インバウンド効果を発揮できるサイトとして成長したい
―冒頭、『観光予報プラットフォーム』との連携の話が出ましたが、具体的にはどのようなカタチを目指しているのでしょうか。
木村:インバウンドの視点ですと、『PHOTO METI』には、今まで見たことのない景色を眺めつつ、そこに行きたいと思っていただく動機づけの意味合いがあります。『観光予報プラットフォーム』は、そのための導線なのですが、現在のところ、ティザー的に付けている状態に留まっているので、今後はより子細な観光情報の発信、たとえば3か月後の混雑状況が知れたり、旅行のプランニングに活用できたりなど、そんなことを念頭に準備を進めています。
そのためには、やはり写真を集めていかなければならないので、まずはそこに注力していきたいですね。
―一連の経過をたどって、改めてどう感じていますか。
有國:写真は一つのコンテンツだということを再確認しました。制作をしながらも全国から集まった美しい写真に引き込まれていく感覚がありました。世の中がインスタグラム的なものに慣れつつある今だからこそ、こういう見せかたが良かったのかなと思っています。
―今後の予定をお聞かせください。
有國: 来年には投稿機能を付けて、地方にいるアマチュア写真家の作品を収集、かつご紹介しながら、地元の人の視点による地方の資源の掘り起こしに寄与していきたいと思っています。旅行雑誌に載っていない写真を多くご紹介していきたいですね。
木村:『PHOTO METI』は、クリエイティブコモンズライセンスによって誰でも写真を使える点が、大きな強み。最終的には、日本一のフォトサービスになっていくことが理想です。と言いつつも、ストックフォトとしての意味合いは半分くらい。今後は、国内外の観光を促すサイトとしてのポジションをどのように確立していくのかが目下の課題です。
引き続き、『観光予報プラットフォーム』との連動を図りつつ、ストックフォトとしても国内外に広く認知されていくことで、インバウンドにも効果を発揮していきたいと思っています。
株式会社ライゾマティクス クリエイティブディレクター 有國恵介さん(左)
株式会社ライゾマティクス アートディレクター 木村浩康さん(右)
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