産業用ロボットで居合の技を表現し、世界へ拡散。「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」実施の狙いと成果
Case: 安川電機「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。
今回は安川電機「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」を取り上げます。産業用ロボットを扱う安川電機の創立100周年を記念し、数多くの世界記録を保持する居合術家・町井勲さんの剣技を、産業用ロボットの性能限界に挑みながら「MOTOMAN-MH24」で忠実に再現。その「MOTOMAN-MH24」と町井氏自身がが対決する動画がYouTubeで470万回超(7/21現在)再生と、大きな話題になっています。
BtoB企業でありながら何故バズを生む動画コンテンツを制作し、全世界へ発信していったのでしょうか。このプロジェクトを手がけた株式会社 電通 第4CRプランニング局 デジタル・クリエーティブ・センター デジタル・クリエーティブ4部 クリエーティブ・ディレクター 阿部光史さん、第2CRプランニング局 コミュニケーション・プランニング・センター コミュニケーション・デザイナー 加我俊介さんにお話を伺いました。
技術力の結晶である「商品」をいかに主役にするか
—まずは、今回のプロジェクトのきっかけについて教えて頂けますか。
加我:(阿部さんが)BtoB企業はあまりコミュニケーション活動を行っていないけれど、その技術力を活かして何か面白い事が出来るはずだ…と以前から考えられていたんです。何社かに自主提案させて頂いていた所、安川電機さんから創立100周年事業のお話を頂き、本プロジェクトがスタートしました。
阿部:世界に誇れる様々な産業がある日本の中で、「産業ロボット」という業界はあまりコミュニケーションについて力を入れていない印象だったのですが、ロボットってそれだけで魅力があるし面白くなりそうじゃないですか。僕は映像制作の経験があり、加我はイベントやWEB上でのバズを作る事への知見があったので、このチームでスタートしました。
—映像は「和」のイメージが強いですが、制作のコンセプトとしてはどのようなものだったのでしょうか?
加我:安川電機さんは、産業用ロボットの生産台数世界1位を誇る、日本を代表するメカトロニクス・カンパニーです。ただ、これまでコミュニケーション活動を行ってこなかった為に、この誇らしい事実も殆ど知られていませんでした。今回の映像は、創立100周年という節目に、安川電機という企業を改めてプレゼンテーションするという目的で作っていますが、根底には”日本の技術力の高さで世界を驚かす”という想いがあり、必然的に和のテイストになりました。
その上で、表現面で一番大事にしていたことは、技術力の結晶である「商品」をいかに主役にするか、という点です。商品であるロボットを登場させることを大前提として、このロボットが何をやると世界がその技術力/性能の高さに驚くか…という視点で色々考えていました。また、その頃にも世界を見渡すとロボットが主役になる動画は色々あったのですが、さすがに和、日本らしい表現を追求したものはなかったので、映像的にも”跳ねる”可能性があるかなと計算していました。
—町井勲さんの人選については。
阿部:まずは居合の神業を披露できること。そして今回の企画に最も合う方ということで探していくと、かなり早い段階で町井さんの名前が出てきました。世界に向けて日本の安川電機・日本の精神、という点を訴求していく時に、やはりロボットの師匠となる方も、ある程度海外で知られている方がいいなと。
加我:今回はYouTubeのみでの展開だったので、動画自体が自走式に拡散するPRドリブンの要素を包含させていきたいと考えていました。町井さんは、世界中で「現代の侍」と称賛されていた方だったので、適任だなと思いました。
—このロボットは元々、どのような用途のものだったのでしょうか。
加我:産業用ロボットなので、通常は工場のラインに導入されるものです。
阿部:溶接をさせたり、物を運んだり、手首から先がカスタマイズ出来るので、汎用性がとても高いんです。
—撮影時に苦労された点などはございますか?
阿部:撮影自体は3日だったのですが、実機を使ったテストが3ヶ月、さらに町井さんのモーションキャプチャを行ったのがテストの2ヶ月前と、なかなか時間がかかりました。
加我:人間ってよく出来ているなと思ったのが、町井さんのモーションキャプチャデータをそのままロボットに移植してみても、まぁこれが切れないんですよ。角度を変えてみるとか、インパクトの速度を変えるとか、本当に緻密な微調整を何度も何度も繰り返しました。正直、CGでごまかすことは出来るんですが、技術立社として謳っている以上それは出来ないですし、安川電機さん社内でも「僕らの開発したロボットの力で作ったな」と思ってもらえるように、という点は意識していました。
阿部:あと、真剣を使っての撮影ということで、これでもかという程安全には気を配りましたね。アクリル板の防御壁を張り巡らし、金属製の甲冑まで用意したのは初めての体験でした。
海外メディアまで含めてPR活動は重点的に行った
—動画の再生回数が470万回超という反響の大きさですが、これは予想通りですか?
阿部:ある程度の予想はしていましたが、1週間で400万回に達するとは思っていませんでした。
加我:今回、広告費はゼロ円なのですが、海外メディアまで含めてPR活動は重点的に行いました。TIMEやThe Wall Street Journalなど、世界中のビジネスマンの目にとまるメディアは特に。安川電機さんの売り上げが海外だけで6割くらいあるという点も踏まえ海外の露出は大事だと考えていたので、ある意味露出の出方は設計通りです。
反響は予想以上でしたが。一番嬉しかったメディアの取り上げ方が、中国のメディアが「嘘だろ?この技術はとにかく先を行っている」という、商品/性能に根ざした取り上げ方でしたね。
—今回のプロジェクトを振り返ってみていかがでしょうか。
阿部:日本のロボットの技術力と侍、すごくわかりやすい文脈を作れた点がよかったですね。
加我:話題拡散という視点では本当に大成功でした。メディア露出を見ていると、「日本の技術力は素晴らしい!」「日本の技術力は世界にもっとアピール出来る!」と、いち企業を超えた、大きな気運みたいなものまで創れたのがよかったのかなと思いました。
阿部:普段あまり積極的に企業コミュニケーションを行わないBtoB系の会社でも、世界に誇る高い技術を持っていれば、それをクリエーティブとして変換し、強力にPRする事が可能である、と実証出来たのかなと思います。
株式会社 電通
第4CRプランニング局
デジタル・クリエーティブ・センター
デジタル・クリエーティブ4部
クリエーティブ・ディレクター
阿部 光史さん
株式会社 電通
第2CRプランニング局
コミュニケーション・プランニング・センター
コミュニケーション・デザイナー
加我 俊介さん
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