クロックスを持ったドローンがミッドタウンの中を飛び交う「空中ストア」が実現するまで

Case: クロックス「空中ストア『Flying norlin project』」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回はクロックス・ジャパンが、2015年3月5日発売のタウンスニーカー最新モデル「norlin(ノーリン)」発売に合わせ実施した「空中ストア」を取り上げます。3月5日〜8日の4日限定で東京ミッドタウンで実施された、「空中ストア」内に設置されたiPadからシューズの色を選択すると、オリジナル開発のドローンが、巨大な空中ディスプレイの中から指定された色のシューズを掴んで届けてくれるというものです。

何故「クロックス」に「ドローン」を掛け合わせたのか、そして実現までの裏話を、クロックス・ジャパン合同会社 marketing PR / イベント マネージャー 斎藤千洋さん(文中S)、猿人 クリエイティブディレクター 野村志郎さん(文中N)、猿人 アカウントプランナー 石川希典さん(文中I)に伺いました。

Interview : 石原 愛美 (Aimi Ishihara)/Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)
持った瞬間に「軽っ!」その軽さをどう伝えるか

—空中ストアというアイデアが生まれた経緯は?

N:スニーカーのサンプルを持たせて頂いた際に、一瞬で「軽っ!」と思ったんですね。その軽さが本当に印象に残って、会社に戻ってからも何人かに持ってもらったんですよ。そうするとみんな同じ反応で(笑)。

見た目はベーシックですが、実はすごく軽いという意外性・ギャップをうまく伝えることが出来ないかなと考えました。色々考えていく中で、世の中的に「ドローン」がトレンドのテクノロジーでもあったので、掛け合わせてみようと。

S:クロックスが、スニーカーをはじめて展開したのが2011年です。独自素材を使っているゆえの軽さは持って頂くとやはりみなさん「軽いね」と反応頂けるのですが、それを視覚的にも、どうわかりやすく伝えるのかという点はずっと考えていたことでした。

N:ドローン自体を複数台飛ばすとか、ゲームっぽくお客さんがアクションをするものとか、色々掛け合わせ方を考えれば考えるほど、そういう面をやり過ぎるとクロックスではなくドローン自体が前に出過ぎてしまうので、初期の段階にストアとしての機能を研ぎすましていく、ということを決めました。

—このアイデアを聞いての第一印象はいかがでしたか?

S:最初は、出来るのかな?と思いました(笑)。ただ「空飛ぶスニーカー」というのは視覚的に分かりやすくておもしろいなとも思いました。

—会場選びも大変だったと思うのですが…

N:飛べるように天井が高くないといけないとか、そもそも風を受けないように屋内じゃないといけないとか、条件を挙げていくとかなり会場候補が限られるんですよ。あとは、色んな人の目にとまるように、クローズの場所でやってもしょうがないですし、メディアの方にも見て頂きたいとなると、郊外ではなくできるだけ都心のほうが良い…このように色々条件を挙げていくと選択肢がほとんどなくて、かなり早い段階から東京ミッドタウンにおじゃまして、事務的に押さえるのではなく、最初からしっかりと企画の趣旨説明に伺いました。

事務的に行くと飛ぶのが危ないからと、企画の内容的に断られるのではとも思ったんですよ。丁寧に企画説明をして、懸念事項もこちらから正直に話して、ミッドタウン側からも出してもらって、それを一つ一つクリアにしていきました。

その後も月に一回おじゃましたり、本番一週間前の実証実験にも来てもらって、「これをクリアしたらOK」という事項を全てクリアした上で臨むことになりました。

I:この実証実験が出来る倉庫を押さえるのも大変で、完璧に再現出来てかつメディアの方にも取材に来て頂きやすいところということで、最終的には千葉にある新習志野の倉庫になりました。

N:実証実験では、バッテリーが冷え過ぎるとパワーが失われてしまうとか、気圧が関係してくるとか、そういうところをひとつひとつ調整していきました。

—今回はオリジナルで開発をしたドローンを使用したそうですね。

N:ドローンの開発はBIRDMANさんと行いました。最初は既製品で出来ないかなとも思いましたが、そもそも「掴む」機能が元々ないですし、シューズとのバランスなどを考えるとこれは作るしかないなとパーツから取り寄せて設計しました。

世の中の関心ごととしての「ニュース」になるように

—イベント当日、想定外のことはありましたか。

N:実は、風です。出入口の扉があることはわかっていたのですが、当日は風が強くてその扉から屋内に入ってくるんです。それでセンサーが揺れだしてしまって、なんとかその環境で飛ばせるように本番30分前くらいに間に合わせました。一ヶ月前から実証実験であらゆることを全て想定していて、全て検証していたのですが、室内なのに風が思いのほか吹いていたというのは、全く想定外でした(笑)

—4日間、会場の雰囲気はいかがでしたか。

N:すごく良かったですね。元々はテクノロジーについてよく知っている方が興味を持って下さるのかなと思っていたら、家族連れの方も多くて。

S:我々のブランドのテーマが”Find Your Fun”ということで、楽しさを盛り込んでいきたいという点をすごく意識してドローンを作って頂いたので、見た目も優しくて、ファンタジーがあって、家族連れの方の笑顔が溢れていました。その光景は嬉しかったですね。

N:お子さんが操作している姿を、ご両親がニコニコしながら写真を撮ったりとか。特に土日は7〜8割家族連れでしたね。まるで幼稚園のような和やかな雰囲気でした。ドローン自体も実は当日すごく動きにも個性があって、動物っぽかったんですよ。機械って完璧な印象があるじゃないですか。ただ、空中を飛ぶという特性上動きも個体差があって、見ている人も「頑張れー」みたいな反応が起こったり(笑)。

—動員数や反響は。

I:会場にお越しいただいた方は約3000名くらいですね。

N:メディアさんを通して伝えるということを重要視していたので、目標人数については特に設定していませんでした。開発自体をストーリー化していて、一ヶ月前から過程を公開したり、早めにリリースを出したり、メディアさんに熱く「こんなモノを作っています」と語ったり、プロセス含めて楽しんで頂こう、そこも含めての企画、という考えでしたね。

その結果メディアでの取り上げられ方も理想通りで、びっくりしました。世の中でドローンが活躍しはじめているという兆しの中でのシンボリックな取り組みとしても取り上げて頂きました。テクノロジー系のメディアさんが親和性いいなと思っていたのですが、ファッション系のメディアさんでもアパレル業界の新しいアプローチとして好意的に取り上げて頂いたり、カルチャー系のメディアさんにも取り上げて頂いたり、一つの事例を様々な切り口でネタにして頂くことが出来ました。

企画をする時は「広告」目的でもちろんやっているわけですが、「広告」目的にとどまらず、世の中の関心ごととしての「ニュース」にするところまで持っていくことが大事だなと思いましたね。

—今後、同じようなイベントの予定はあるのでしょうか?

S:クロックスとしてはこの4日間だけと考えています。限定だからこそ、話題を作れたなという手応えもあります。

I:クロックスのスニーカーの認知が最も重要な事項でしたが、今回の4日間でその目的を達成することが出来たのかなと思います。

S:もっと見たいと言ってくださる方も多くて、嬉しいところでもあるのですが(笑)。 次のステップとしては、ウェッジやハイヒールなどもあるので、サンダルだけじゃないブランドだというところを引き続き楽しくて面白い活動を通じて、知って頂けたらと思っています。

クロックス・ジャパン合同会社
marketing
PR / イベント マネージャー
斎藤 千洋さん(中)

猿人
クリエイティブディレクター
野村 志郎さん(右)

猿人
アカウントプランナー
石川 希典さん(左)

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