「雪道コワイ」「いきなりBAN」に続くAUTOWAY新作動画「ラバー」制作の狙いと撮影舞台裏

Case: AUTOWAY「ラバー」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回はタイヤ・ホイールの販売を行う株式会社オートウェイによる、スタッドレスタイヤへの履き替えを啓蒙する新作WEB動画「ラバー」を取り上げます。「AUTOWAY」ブランドのWEB動画といえば、YouTube再生回数940万回超えの第一弾「雪道コワイ」、再生回数200万回超えの第二弾「いきなりBAN」と、これまでも話題を振りまいてきました。これら一連のシリーズを手がけるBBDO J WEST クリエイティブディレクター・コンテンツプランナー 眞鍋海里さんに、第三弾「ラバー」制作の裏側や動画の持つメッセージの狙いについてお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人
ラストシーンは、第一弾の「雪道コワイ」に続く設定

—「雪道コワイ」「いきなりBAN」という二作を経ての今回のムービーですね。

前々作・前作は、圧倒的に足りなかった“認知”を上げることが目的でした。それで「飛び道具的」にビックリしてもらうムービーでバイラルしやすい構造にしたんです。その結果、おかげさまでAUTOWAYはある程度ネット上で名前を知られるブランドになりましたし、AUTOWAYが発信するものに対してのユーザーの期待感も上手くつくれていると実感があったので、今回のムービーに関しては、「今回はバイラルすることを目的にしなくていいと思うんです。次のステージに行きましょう。しっかりと見た人の心を動かすメッセージを発信していきましょう。」という話をクライアントさんにしました。

動画コンテンツとしても、もう少し「じっくり見てもらう」ことにチャレンジしたいなとも思っていました。CMとしては長いかもしれません。ただCMの概念を超えてちゃんとミュージックビデオとして素晴らしい作品になっていれば、長尺の動画コンテンツとしても楽しんでもらえるのではないかと。なので今回のテーマは「MV」、ミュージックビデオならぬメッセージビデオというテーマで制作をスタートしました。

—「恋愛もの」にした理由は何でしょうか。

ずっと前から、広告表現でユーザーとの間に”どこか恋愛に近い感情”を生み出したいというのが僕の中にはありました。人間のコミュニケーションにおいても恋愛感情って、一番、結び付ける力が強いじゃないですか? 広告においても恋愛感情のようなものを作り出せれば、時間が経ってもずーっと残るものになるんじゃないかと。

今回、観ている人自身が彼氏となって動画に入り込み、(動画に登場する)女の子に恋をし、ラストでその恋を奪い、その喪失感の中でメッセージを伝えるという構造にしています。

この没入感って、WEBムービーならではなんですよね。TVとは違い、パソコンやスマホなどのパーソナルデバイスで観る分、ひとりの世界に入り込みやすい。公開後SNS上でも「泣いた」「心奪われた」「マジで(タイヤ)替えよう・・・」といった声が多く、うまく「恋愛感情」が作れているなという印象です。ちなみにクライアントへのプレゼン時には「今回は、バイラルムービーでなく、バイ”ラブ”ムービーです。」という話をしていました(笑)

—メッセージとしては「啓発」に近い印象です。

AUTOWAYさんには色んなメーカーの商材があるので、「この商品のこの機能がいい」という1商品に特化した売り出し方はできないというのもありますし、タイヤを変えることは「大切な人や自分を守る為である」と伝えることで、より目的意識が明確になるのではという狙いです。

—ラストシーンは病棟ですが、これはどのような設定なのですか。

実は表だって設定を明確にしてません。もちろん、制作サイドはちゃんと細かい設定に乗っ取って撮影しているんですが、あまりそれを押し付けずに、観ている人が自分で解釈する余白をつくりたかったんです。そうすることで、いろいろと語ってもらえる動画になるかなと。

道中に買ったキーホルダーも二個だったのが一個になってしまったり、曲のラストには「ピッピッピッピ」という電子音が入ってきたり、分かる人には分かるというぐらいにとどめています。裏設定はしっかり決めてるんで、例えば「キーホルダーは、(“無事に帰る”の)“カエル”じゃなきゃダメ」と撮影前日の夜まで探しまわったり。結局、理想的なキーホルダーがなくて、雑貨に付いていたカエルをばらして無理矢理キーホルダーにしました(笑)

—この結末が第一弾「雪道コワイ」につながるとのことですが、具体的には。

「雪道コワイ」で”なぜあの白い服を着た恐ろしい女性がドライバーを警告するのか?”、そのバックストーリー的なものを作れないかなと思いました。

—ということは、彼女が事故に遭った場所で雪女となって立っていると・・・

今回の「ラバー」のラスト、朝を迎えた彼女は真っ白い服を着ているじゃないですか?そこも気付いた人だけ気付けばいいようなポイントなんですが、それがSNS上でも「あれがこうだ」と議論したり考察したりするポイントにもなりますし。

—ではあえて設定を明確には打ち出さずとも、「こうかな?」という余白を作ることで議論の余地を残すということですね。

そうですね、今回の第三弾は特に「想像にお任せしている」部分が多いんです。

第三弾の今回は、「どこまで没入してもらえるか?」の挑戦

—動画の反響はいかがでしょうか。

想像以上で驚きました。今回はバイラルしなくていいと思っていたんですが、いざ公開してみると動画の再生回数やSNSでシェアされ拡散していくスピードも想像以上に早く。

SNSでの反応をみても、「泣いた」「ラスト鳥肌立った・・・」「この喪失感・・・」とかメッセージがしっかり伝わってはもちろん嬉しいんですが、それ以外にも「やられた!!」「オートウェイが本気を出してきたwww」「振り幅はんぱない!ww」のように、3作通して、AUTOWAYがつくる動画を期待して待っている方が沢山いらっしゃるんだな〜というのが感じられてそれが凄く嬉しかったです。

—登場している彼女役は「いきなりBAN」でも登場した奈緒さんですね。

演技が前回の「いきなりBAN」でも上手いなと思っていたので、「奈緒さんしかいないな」とオーディションもせずに決めました。「いきなりBAN」でも同性の反応がすごく良くて、「すごくかわいいー」という女性からの意見が多かったという面もありました。

そしてすごく勉強家で「彼氏との付き合いも長くて、今回プロポーズされる設定」と説明したら、「プロボーズされた経験はまだないので、結婚している人の話を聞いたり、サプライズの映像を見たりしてきました」と撮影時に明かしてくれました。

—撮影時、奈緒さんにはどのような演出をしたのですか。

「今日一日このカメラが彼氏だから、純粋にプライベートのように素で楽しんで、カメラもあまり気にせずに自分が気になったポイントがあればそっちに行ってもいいよ」という話をしました。

それと「あまりCMっぽくしたくないんだ」と。本当にプライベートで彼氏が撮ったような、そんなムービーにしたかったんです。それは監督にも制作チームにもずっと話をしていました。

—バンド「Canvas(カンバス)」の起用の意図を教えてください。

MVというコンセプトは最初にあったので、一緒にこの世界感をつくってくれるいいアーティストがいないかいろいろ探しました。彼らも元々福岡出身なので、同じ福岡のアーティストを起用したいという点と、彼らの表現する世界観も上手い具合に動画にマッチできるんじゃないかと思いお願いしました。

曲は今作のために、一から一緒につくっていきました。とてもいいバンドなので、これを機にこのムービーがカンバスの広告にもなったらいいなという想いもありました。

—楽曲の反応はいかがですか。

かなりの反響をいただいてます。「販売していないんですか?」と直接クライアントの方へ問合せがあったり、海外からも「この曲のアーティストは誰だ??」との書き込みがあったりと。
ということもあり、急遽フリーダウンロードを始めました。とても素晴らしい楽曲なので、是非特設サイトの最下部からダウンロードしてお聴きください!

—AUTOWAYさんからの反応はいかがですか。

最初は「長いかも・・・」という意見もありましたが、公開後の反応・反響をみると「とても良かったです」と今では高く評価してもらっています。社内の評価もいいみたいで、過去の作品と比べても「今回が一番好き」と意見が多いようです。

—眞鍋さんの手がけるAUTOWAYさんの動画は三作目ですが、「動画コンテンツ」に対する今の考えをお聞かせください。

個人的には、毎回新しい要素をいれこんでいきたいなと思っています。今回は(動画の)ラストのコピーを最大限効くものにするために、MVという形で「どこまで没入してもらえるか?」の挑戦でした。ただ、どういう動画コンテンツを作るかはその時にある課題や受けて側のモチベーション次第です。そのブランドがやってきた文脈みたいなものまで含めて考えると、また違った動画の作り方ができるんではないかと思っています。

この「ラバー」は一年前にやっても全く広がらなかったと思います。過去2作で、“AUTOWAYは面白い動画をつくる”というブランドがある程度確立できたからこそ出来たことです。なので今回初めて動画タイトルやオープニングカットに、AUTOWAYというブランド名を敢えて入れました。”AUTOWAY”ということだけで再生ボタンを押してもらえるんじゃないかという自信があったので(笑)

今回はスタッドレスタイヤの売上金の一部を公益財団法人交通遺児育英会に寄付したり、実態の部分でもしっかり動いていこうと取り組んでいるので、動画を見ている方の考えるきっかけになったり、タイヤを替えるという動きにもより繋がるといいなと思っています。

※前作「雪道コワイ」「いきなりBAN」のインタビュー記事も下記から是非ご覧ください。
「雪道コワイ」「いきなりBAN」の裏側 Part1〜ヒット動画を立て続けに生み出す秘訣
「雪道コワイ」「いきなりBAN」の裏側 Part2〜削除の真相と動画コンテンツの可能性

【Interviewee】

BBDO J WEST
クリエイティブディレクター・コンテンツプランナー
眞鍋海里さん

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