広告を機会と勇気に変えるーーCRAZY「#言いそびレター」で挑んだ新たなアプローチ|後編
「IWAI OMOTESANDO」を中心にウェディング事業「CRAZY WEDDING」を展開している株式会社CRAZY。8月7日の「パートナーの日」に合わせ、パートナーとの日常で言いそびれていた感謝やお詫びを伝える機会を提供する取り組み「#言いそびレター」を2025年8月に実施しました。
CRAZY WEDDINGで結婚式を挙げた5組に、日常で言いそびれていた気持ちを手紙にした「#言いそびレター」を綴ってもらい、その手紙を2人が日常的に利用する5駅に掲出されました(PR EDGEの記事はこちら)。
SNSキャンペーンも行われ、取り組みに共感したさまざまな人が言いそびれていた気持ちを投稿するなどの大きな話題を呼びました。
また、前年となる2024年に実施した「伝える勇気」広告は、伝える勇気をテーマにした交通広告で、大切な人に想いを伝える難しさや言葉が紡がれるまでの手間をレタリングで表現しました(PR EDGEの記事はこちら)。

2024年に掲出された「伝える勇気」広告から
いずれも従来の広告の枠を超えた表現で多くの人の心を掴んだ結果だといえます。これらの施策を担当した株式会社CRAZYのクリエイティブ室でプランナー・コピーライター・クリエイティブディレクターを務める永井絢さんに、それぞれの企画の背景や実現プロセスについてお話をうかがいました。
前編では2024年の「伝える勇気」広告について、自主プロジェクトとしての企画の始まりから実施後の反響までを、後編では2025年の「#言いそびレター」の企画の始まりから実現までの裏側をお届けします。
※前後編の後編、前編はこちらから

永井絢さん IWAI OMOTESANDOの外観にて[筆者撮影]
2025年の「#言いそびレター」は、前年とはアプローチが大きく異なりますね。どのような戦略で企画されたのでしょうか。
永井 背景として、広告を出そうというモチベーションというより、広告という枠組みを機会と勇気に変えられないかという発想がありました。私たちCRAZYのパーパスが「人々が愛し合うための、機会と勇気を提供し、パートナーシップの分断を解消します。」なので、ブランド広告もそうあるべきだと思いました。
本来多くの人に伝えるための広告枠を、パートナーシップを大切にしたいおふたりのための場所として活用しようという考え方で進めました。
前年のSNSでの反響も踏まえて、今年はSNSキャンペーン展開も含めた設計にされていますが、その辺りの狙いは?
永井 今年はみなさんの日常の中で機能するようなものにしたいと企画をしていました。ただ単に広告を掲出しただけでは終わらないものを目指していました。そこで、SNSキャンペーンも活用しながらやってみたという感じです。
当選者の方には、横浜で新たに開業する「CRAZY GRANDE MAISON」でのレストラン体験をプレゼントとして用意しました。新規開店のための広告ではなかったので、最初は別のプレゼントを考えていたのですが、「CRAZY GRANDE MAISON」は大切な人と“美味しさのその先にある感動”を分かち合うために、料理や空間、すべての体験を設計している場所なので、まさにパートナーシップを大事にしようとしている方や、勇気を出そうとしている方々に届けたいと思い、ご用意しました。
「#言いそびレター」では、実際に結婚式を挙げた方々と共に作られていますが、その選定や協力体制の構築、制作プロセスは相当大変だったのではないでしょうか。
永井 ご想像のとおり、本当に大変でした(笑)。掲出場所はもともと新婚世帯が多い街に絞っていたんです。
短時間で作り上げたため大変だったのは事実ですが、CRAZYには何か新たな取り組みを実施する際に、ご協力いただける本当に心強く大切なお客さまがたくさんいらっしゃいます。結婚式後も関係性が続いている多くのお客さまの存在で実現できた企画だと思います。
お客さまとともに広告を制作していくプロセスを歩めること自体がCRAZYの強みでもあり、価値だと思っています。

アンケート調査や個別のヒアリングプロセスについて、具体的にはどのような作業だったのでしょうか。
永井 アンケートを取ったのは、数字で見せたいということ以上に、私たちの確信になったことが大きかったですね。
実際にお客様の日常生活で、「猫の世話してくれてありがとう」と言えてないとか、「ママはそのままでいいよ」とほんとは伝えてあげたいのにといった、伝えられていない想いがたくさんあるということが確信できました。
掲出した言いそびレターの内容は、ご協力いただいたそれぞれのおふたりにヒアリングして、言いそびれていたことを一緒に探していく作業でした。それはある種、結婚式のプロセスと近しいものでした。結婚式のプロセスでも、お客さまのこれまでの人生をたっぷりヒアリングして、プロデューサーがそれをライフストーリーという1本の動画に編集してお見せします。そんなご結婚式でお客さまの人生を聞かせていただくプロセスのように広告も作ることができました。この作り方自体がCRAZYらしいなと思います。
今回の広告制作で意識した点や工夫した点はありますか?
永井 試行錯誤したところで言うと、「パートナーに感謝を伝えよう」とか「勇気を出そう」みたいなのって、説教臭くなってしまうと思っていて、いかに自然なフックを作るかはかなり悩みました。
その過程で思ったのは、人間の痛みや弱みみたいなものを、ある種受容してあげる、その上で「それでも、勇気出してみようぜ」という、強弱というか、影と光みたいなバランスがすごく大事だということです。今回も「言いそびれちゃうことあるよね」というある種の「てへぺろ」感が、共感のきっかけになっていったのかなと思います。
フォントをはじめ要素の見せ方やサイズについても、こだわりが感じられます。
永井 はい、この広告で本当に届けたい人は、究極的にはパートナーである1人なんですよね。なので、全員が読めることよりも、その1人に届くということを優位にデザインしています。もし気になって読んでくれた方々にとっても、普段、忙しなく流れている時間のなかで、この時間だけは立ち止まれる時間になったらいいなと思いました。本音にピントが合う瞬間を演出したいということで、背景写真についてもあえてぼかしていて、手紙(本音)にフォーカスできるデザインにしています。
実施後の反響について教えてください。
永井 意外な反響として、社内で「#言いそびれレター」の活用が勝手に始まっていったことがあります。ブランドプレゼンテーターチーム(営業チーム)のメンバーが、チームのコミュニケーションで「今日あなたのここ良かったよ!」など伝えそびれた一言を書くのに使いたいと言ってくれて。アートディレクターがその日のうちにフォーマットを用意して、じゃあお客さまにも渡せそうだね、とか、こんなシチュエーションでも使えそうだね、と当初想定していなかったところまで使い方をみんなが広げてくれたのがすごく嬉しかったです。今オフィスにその印刷したものを常設しています。
あとは、お客さまや外部の協力パートナーなど、クリエイティブ室からも関係者の方々へ「#言いそびレター」としてお手紙をお渡ししました。協力パートナーさんは、泣いて喜んでくれて自分たち自身も想いを伝えることの価値と意味をあらためて感じる企画になりました。

この2年、継続してきた活動を、今後どのように展開していく予定ですか。
永井 正直、広告で第3弾を出すかは決めていません。「広告を出す」という枠組みの中でやっているわけではなくて、自分たちの表現活動をしていこうという一環として広告という手段をとっていました。
屋外広告は、会社全体の今自分たちがやっていることの思いや向かっていきたい方向性のメッセージを発信していく場として活用しています。広告のアウトプットを2回やってみて、こういった組織のカルチャーや想いが滲みでるようなブランド活動に取り組む意義を感じられたので今後も取り組んでいけたらいいなと思います。
CRAZYはウエディング事業が有名ですが、それ以外の事業もあるということを、今回の施策を通じて伝えたい想いはあったのでしょうか。
永井 そうですね。さまざまな側面から知ってくださっている方が多くて、そんななかでもやっぱり結婚式の会社というイメージは強いと思います。なので、結婚式だけの会社じゃなくて、愛やパートナーシップを扱っているブランドなんだ、とみなさまの認識をアップデートするきっかけを作りたいという想いもありました。
CRAZYのメイン事業は結婚式なんですが、人が愛し愛される世界を信じています。そのために、パートナーシップの分断の解消をする機会と勇気を提供している。結婚式をひとつの機会として活用していますが、本当は結婚式をやらない方も、もうやっている方も、すべての方とCRAZYは繋がれるはずだと思っています。

最後に、アイデアを捻出する際に大切にしていることを教えてください。
永井 どちらの広告も、自分自身が本当に思っていることかどうかがすごく大事だと思っていました。去年で言うと、自分は親にずっと「ありがとう」と面と向かって伝えたことがなかったけれど、自分が担当させていただいた結婚式のお客さまや、会社のメンバーに勇気をもらって、実際にやってみたんですね。自分が実践してみたからこそ生まれた感情、「ありがとうって言えない人ほど、言った方がいい人だよな」という想いがそのままコピーになっています。
ターゲットに憑依するって究極的には無理なんじゃないかと思っていて、自分の感情を通して、届けたい人と共鳴し合うという考え方が個人的にはしっくりくる気がしています。1人の人間として自分が何を感じているのか、どんな後悔があるのか、弱さがあるのかといったとても個人的な生のものこそが、多くの人と分かちあうためのヒントになると思っています。
なので、できるだけジャーナリングなどで、嫌だったことや寂しかったことなど、自分の感情を逃さないようにしています。特に私は本当に忘れっぽいので、記録に残すことで、そうだった、ああだったという感情を追体験することができます。、何の企画にも昇華されない感情が9割9分ですが(笑)たまにふと何かのアイデアの種になる時があります。
CRAZYがアプローチしている感情がすごく人の深いところにあるものだったり、普段見えづらいものだったりするので、その目に見えないものに自分がいかに敏感でいられるかが、この会社のクリエイティブをやる上で大事にしていることです。
(後編・了)
前編では2024年の「伝える勇気」広告について、自主プロジェクトとしての企画の始まりから実施後の反響までをお届けしています。前編はこちら
(取材・文/見野 歩)
・※関連プレスリリース:CRAZYが「伝える勇気」をテーマにした交通広告を掲出。
・※関連プレスリリース:8月7日(パートナーの日)に言いそびれていた気持ちを伝える機会を届けるプロジェクト「#言いそびレター」をCRAZYが実施
その他のインタビュー記事についてはこちら
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