認知症や介護を受ける高齢者も活躍。75歳以上が働く喫茶店「ばあちゃん喫茶」開店
福岡県春日市に、75歳以上の高齢者が働く喫茶店「ばあちゃん喫茶 ときどきじいちゃん」がオープンしました。
運営するのは、超高齢社会の課題解決に取り組む「うきはの宝株式会社」。高齢者の就労支援と地域活性化を目的に設立された同社は「たとえ認知症や介護を受けていても、役割があれば人は輝ける」という考えのもと、喫茶店をはじめとしたさまざまな取り組みを行っています。
週替わり店長制で高齢者が主役に
「ばあちゃん喫茶」では、地域に住む75歳以上の高齢者たちが週替わりで“店長”を担当し、自慢の手料理を提供します。「がめ煮」や「サバの味噌煮定食」「ちらし寿司ランチ」など、提供される家庭料理の数々は「一品一品が身体に沁みる」と客から好評です。ランチは880円(税込950円)とリーズナブルで、手作りならではのあたたかみがあるのも魅力のひとつ。
メニューを週替わりにすることで訪れる人の楽しみが広がるとともに、高齢者たちに「今日行く場(=教育)」「今日の用事(=教養)」が生まれ、生きがいにつながっています。
「働く」ことがもたらす希望と自信
本取り組みの大きな特徴は、介護を受けていたり、認知症を患っていたりする高齢者も働けるように設計されていること。役割を持ち「誰かを喜ばせる」ことに取り組む中で、働く高齢者たちに表情や活力の変化が現れそうです。
5月にオープン予定の「URしかた団地店」では、介護事業所「なごみの家」と連携し、認知症の方々もスタッフとして迎え入れます。単なる“福祉の枠”を超え、高齢者を「働く担い手」として捉え直すことで、介護や医療のコスト削減といった副次的な社会効果も期待される施策です。
空き家を地域の拠点に変える力
「ばあちゃん喫茶」は、空き家や使われなくなったスペースの活用にも貢献しています。今回オープンした春日市の「ぶどうの庭店」は空き家をリノベーションして誕生しました。これに続き、4月には福岡市城南区梅林、5月には早良区URしかた団地に新店舗がオープン予定です。
高齢者の就労機会創出と空き家の利活用という地域課題を同時に解決するモデルとして、スタンフォード大学のケン・スターン教授もこの取り組みに注目。「世界のお手本になるかも知れない」と高く評価しています。
地域と多世代をつなぐ“知恵の場”
「ばあちゃん喫茶」は食事を提供する場にとどまらず、地域住民や子ども、若者、ビジネスパーソンが集う“多世代交流の場”としても機能しているのが特徴的。ばあちゃんたちの人生経験や知恵を、孫世代へと伝えていく。そんな“昔と今”をつなぐ場としての価値も備えています。
さらに、うきはの宝株式会社は「ばあちゃん新聞」(月5,000部発行)や「ばあちゃんの学校」、高齢者が企業の商品を審査する「ばあちゃんデザイン賞」など、高齢者の力を多角的に活かす仕組みを広げています。
高齢者の可能性を信じ、広げる
2019年の創業以来、「うきはの宝株式会社」は「ばあちゃんの得意を仕事に」する社会モデルを構築してきました。調味料や干し芋といった特産品の開発販売にも取り組み、ばあちゃんたちの経済的自立も支援。こうした継続的な取り組みが評価され、2024年にはグッドデザイン賞BEST100を受賞しました。
ばあちゃん喫茶の根底にあるのは「人は年を重ねても、役割があれば輝ける」という強い信念。地域のじいちゃん、ばあちゃんたちが身近な場所で活躍し、その姿を通じて社会全体が高齢者の可能性を見つめ直す。ばあちゃん喫茶は、そんな希望に満ちた挑戦の象徴ともいえるでしょう。
今後も福岡県内外への展開を進める「ばあちゃんビジネス」。CSRの視点から見ても、高齢者の就労支援、地域課題の解決、多世代交流の促進という複合的な価値をもった、先進的な取り組みとして注目される施策でした。
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