コーヒーが飲みたくなる“バイラルサウンド”はどのように生まれた?「WONDA」ラジオCMの舞台裏
Case: アサヒ飲料「WONDER SOUND PROJECT」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。
今回は、アサヒ飲料「WONDER SOUND PROJECT」を取り上げます。
『ワンダ 極 ブラック』の発売に合わせて、思わずコーヒーを飲みたくなる究極の音「WONDER SOUND」を制作。60秒のラジオCMとなりニッポン放送・MBSラジオでOA。さらには『口で効果音をつくる音の魔術師』と呼ばれ、数多くのアニメ・映画の音響効果を担当する笠松広司氏がボイスエフェクトで再現したバージョンも制作されました。
今回はこの笠松氏によるバージョンがどのように実現されたのか、その舞台裏を株式会社 ニッポン放送 営業局 営業1部 主任 平田浩之さん、株式会社 サウンドマン 第一制作部・CM課 ディレクター 松田哲雄さん、株式会社 電通 MCプランニング局 メディア・ソリューション室 ソリューション1部 部長 ディレクター 高草木恵さんに伺いました。
「バイラルムービーもいいけれど、バイラルサウンドがあってもいいんじゃないか」
—まずは、企画が生まれた経緯について教えてください。
高草木:アサヒ飲料さんがWebでの拡散を視点にした企画にチャレンジされるにあたり、うちの営業が「バイラルムービーもいいけれど、バイラルサウンドというものがあってもいいんじゃないか」と言ったのがきっかけです。「それいいじゃないか、もし本当に出来るなら企画を作ってほしい」とお話が進むことになりました。
バイラルサウンドってなんだ?と考えた時に、まずは誰もが聞いた時にコーヒーを飲みたくなる音って何だろうということを考えました。実際やってみるとコーヒーをいれるまでの過程は、実はあまり音が鳴らず「ここは絶対に飲みたくなる音だ」というものがあまり存在しないよねという話になりました。
ただ「飲みたくなる」ことはもちろん「話題になる」ことは何だろう?と改めて考え、リアルなコーヒーの音ではなく、それを誰かがやってみたということにしてはどうかとなり、色々と再現する方法を考えデモを作りました。例えば楽器のパーカッションだけでやるパターンや、ポイスパーカッショニストによるパターンですとか。ただ、コーヒーをいれる音は、音程があるわけでもないので、音符で表現出来ないんです。その中で最後に、笠松広司さんによる口だけですべてを表現するというパターンにたどり着きました。
笠松さんは本職が音効なので、どういう音が鳴ればいいかということが見えていた面もあります。色んなデモを聞いてもらったなかで、笠松さんの音源を聞いてアサヒ飲料さんも「すごいじゃないか」とおっしゃられましたね。
このように、ラジオCM制作としてはありえないくらい事前の手間がかかっていましたし、全員あがりが見えない、というものでした。
—収録時に工夫した点・苦労した点はありますか?
松田:ラジオドラマなどでも様々なSEをつけますが、やはりコーヒー自体は静かにいれるものですから、あえて音を発てるのは禁じ手じゃないですか。ただ「バイラルさせる」ということならチャレンジしてみようと。
笠松さんもコーヒーの音を完全に再現することは難しいと分かった上で受けて頂いたと思うのですが、どうしてやる気になったのか聞いてみると「難しそうだからやってみようよ、ということもあるし、口で再現することで”なにこれ?”と思ってもらえる感じがいいんじゃないか」と。
笠松さんは、何かしら会話の話題になるということを狙って再現してくれたのかな、と思います。例えば車の中で流れて来た時に「お父さん、これ僕も出来るね」という親子の会話の元になりますよね。それこそが、「バイラルとはこういうことだな」と思いましたね。
Webでの話題化も。「ラジオ”も“やってるニッポン放送」という意識で
—反響はいかがでしたか。
高草木:ラジオCMの認知率という面では、出稿量に対して、通常とれる広告認知というのがあるわけですが、今回は通常の4倍強の数字を出しています。
ラジオを起点にしながら、映像、Web、PRという立体的な設計を企画当初から意識して行ったことが良かったのかなと思います。
—Webでの話題化も意識されていたということですね。
高草木:どのタイミングでどんな内容の露出を狙うか、ニッポン放送様のグループ会社の「grape」での記事露出を含めて、効果を最大化するタイミングや、文脈づくりを行いました。記事露出という意味では、100件以上の記事化につながりましたし、ラジオ起点の企画ですが、ヤフーの映像トピックスやトップページにも露出し、本当にありがたい限りです。
—今回のKPIはどのような点に設定されていたのでしょうか。
高草木:動画視聴回数、記事露出数、SNS拡散数など、様々な指標があったのですが、ほぼ全てのKPIをクリアしました。
—リスナーさんからの反応はいかがでしょうか。
平田:昨今、少しでも目立つように大きな音のラジオCMが多い中で、今回のCMは静かな立ち上がりなので逆に耳がいくという面もあったようです。「面白いCMだね」「変わったCMだね」という反応が多かったです。また、このCMに関する感想が、番組宛に来たりもしました。スタジオで生放送しているパーソナリティーも聞く機会がありますから、例えば清水ミチコさんがCM明けで物まねされたりとか。リスナーの方に広く楽しんで頂けたと思います。
—ワイドFM(FM補完放送)もスタートし、よりよい音質で聴取出来るようになった面も大きいですか?
平田:ワイドFMは、音楽番組の数字が上がったり、プロ野球中継の臨場感が増したりと、スタートしてから反響は大きいです。今回はたまたまのタイミングでしたが、そういう中で音をテーマにしたクリエイティブができたということは大きかったかなと思います。radikoもありますから。
—ラジオ局がこういった新たな広告表現に取り組む意義についても、お聞かせ下さい。
平田:SNSが発達して、radikoもスタートして、ラジオとネットとの相性が格段によくなっていると感じます。また、番組で発言した内容がすぐニュースになってYahooのトップになったりということもあったりと、今のラジオの置かれている拡散力というのは昔と比べると上がってきていると思います。
また弊社としても、デジタル施策や事業など「ラジオ”も”やってるニッポン放送」と、自然と心のどこかに持って仕事をしている人間も結構いるのかなと思っています。広報室についても他のラジオ局に先駆けて作りました。これはWebニュースが発達しているからこそです。
高草木:代理店のラジオ担当を長くしていましたが、ラジオリスナーを置いていかない前提で、「ラジオで終わらない企画」ということをずっと心がけていました。
ラジオは双方向のメディアの元祖ですよね。電リク、FAX、はがき職人、全てSNSに近いですよね。今も、Webに拡散しやすい話題は、ラジオこそ得意じゃないかなと思っていますし、だからこそ今回も絶対成功したいと思っていました。またWebでの拡散やPRという面を意識しているニッポン放送さんだからこそ、ここまでの話題になったのではないかと思います。
松田:やっていることははがきの頃から一緒ですが、色んなツールから話題が広がるようになりましたよね。
また今回はスタッフの意識がすごく変わりました。「あ、こういう風にやるとこういう反応があるんですね」とか「これってどういう風に録ったんですか?」と興味を持ってくれたり。「なるほど、こういう伝わり方をするんだ。はがきの頃より密になってる部分もあるじゃない」というスタッフの意識改革のきっかけにもなったのかなと思います。
(左より)
株式会社 電通 ラジオテレビ局 ラジオメディア推進部 坂谷温さん
ニッポン放送 営業局 営業1部 主任 平田浩之さん
株式会社 サウンドマン 第一制作部・CM課 ディレクター 松田哲雄さん
株式会社 電通 MCプランニング局 メディア・ソリューション室 ソリューション1部 部長 ディレクター 高草木恵さん
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