PCメーカー×海の家 ブランド訴求から自治体連携まで『レノボ・ハウス』の成果

Case:レノボ・ジャパン『Lenovo House at Quick Silver』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、レノボ・ジャパン株式会社が、由比ガ浜海水浴場(神奈川県鎌倉市)に、2016年7月1日〜8月31日までの期間限定でオープンした、海の家『Lenovo House at Quick Silver』(以下、『レノボ・ハウス』)を取り上げます。

今年で3年目となる本取り組みは、休憩場所やフード・ドリンクの提供といった、海の家本来の機能はもちろんのこと、同社の最新マシンに触れながら、シアターを楽しんだり、地元の観光情報を入手したりといった、パソコンメーカーならではの楽しみかたを提供しました。傍から見れば、パソコンメーカー×海の家は、一見異色なコラボレーションにも見えますが、そのねらいは、何だったのでしょう? 実現のいきさつや成果を、レノボ・ジャパン株式会社 コンシューママーケティング担当部長 宮田弘之さんに伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美
海の家は、ミレニアルズ世代とのコミュニケーションの場

—まず、『レノボ・ハウス』のオープンに至ったきっかけや背景をお聞かせください。

レノボは、ミレニアルズ世代(編集部注:2000年以降に社会に出てきた、20代〜30代前半の世代)と言われる若いアクティブな世代に向けたブランディングに注力しています。この“ミレニアルズ”のなかでも、パソコンやタブレットを比較的自由に使いこなす進んだ方が、主なターゲットになるのですが、こういった方たちは、デザイントレンドにも敏感で、周囲のご友人にも影響力をお持ちです。

レノボのような新しいブランドは、そういう方にまずファンになってもらうことが大事だと考え、2013年より「レノボアクティブキャラバン」というキャンペーンを展開し、レノボブランドを訴求する活動を続けてきました。具体的には、スノーボード大会のスポンサー、ハロウィン当日の街頭イベント等が挙げられます。海の家もまた、まさにアクティブな若者が集う場であることから、本キャラバンの一環として2014年から取り組みをスタートしました。

—デジタル施策をふんだんに取り入れた、さまざまなコンテンツが組まれています。コンセプトはどういったものなのでしょうか。

我々は、パソコンやタブレットのメーカーですので、何かしらのデジタルツールを使って楽しいことをやる、ということを大前提にしています。「やっぱりインターネットって便利だな」「SNSってすごいな」「写真って楽しいな」と思ってもらうことが、レノボにとってファン層を広げる基本になっているのです。
とはいえ、海の家そのものに足を運ぶ人の数は、マス広告などでのタッチポイントと比べるとはるかに小さい数であるため、SNSでいかに拡散してもらうのか、という部分は工夫を凝らしました。

この点でいくと、今年は、『SnSnap』というフォトプリントサービスを使った施策が功を奏し、想定の5倍を超える反響が得られました。これは、スマホで撮った写真が、プラスチックのカードにプリントされるコンテンツです。写真に「#LenovoHouse」というハッシュタグを付けて、TwitterやInstagramに投稿すると、『SnSnap』がハッシュタグを基に画像を表示するので、そのなかから自分の写真を選んで出力するという流れです。チェーンを付けるとオリジナルキーホルダーにもなるので、とにかく大好評でした。我々としても、『レノボ・ハウス』で撮られた写真がSNSにどんどん投稿されますので、拡散策としても上手くいったと思っています。

—こだわった部分はありますか。

「海の家としてカッコいい」ということは、すごく大事にしたいと考えていました。この部分は、由比ガ浜のカルチャーを長年つくってきたQuick Silverさんのご協力を仰げましたので、鎌倉のビーチハウスらしさのなかに、うまくレノボブランドを溶け込ませることができたと思います。

そのおかげもあり、期間中は海水浴客だけではなく、近くにお住まいの方がランチを食べにご来店される姿も見られ、地域の方に受け入れられていることを感じました。現役をリタイヤされたご高齢のご夫婦がブランチを楽しまれるシーンなどは、お店の雰囲気づくりに貢献いただいているかのようで、とても印象的でしたね。

自治体とのコラボレーション、経産省発プロジェクトの実証実験も並行実施

—今年は、鎌倉市とのコラボレーション、経済産業省が2020年の社会実装を目指している『おもてなしプラットフォーム』(編集部注:訪日外国人の属性情報をサービス事業者間でID連携及び情報連携することを可能にするプラットフォーム 出典:経済産業省)の実証実験を行うなど、さまざまな取り組みも並行して行われています。それぞれどのような活動だったのでしょうか。

まず、地元の観光協会や企業との取り組みとして、来店者に対し観光情報の提供を行いました。これは、各テーブルに設置されたタブレットに、市内の観光スポットを紹介するアプリをインストールし、お客様が自由に閲覧できるようにしたもので、気になるスポットをタップすれば、詳細が表示されるようになっています。本件は、レノボの本業である、観光ソリューションの開発という視点から話が発展しました。『レノボ・ハウス』を3年間続けてきた成果として、このように実を結んだことは大変良かったと思っています。

そして、『おもてなしプラットフォーム』ですが、位置づけとしては、2016年10月からの実証実験の前段階というもので、『レノボ・ハウス』では、指紋認証によるキャッシュレス決済サービスの実証実験を行いました。海水浴のように基本手ぶらで楽しむレジャーは、お財布を携行すると煩わしく、管理面の心配もあります。その点、このサービスは、指紋認証によって支払いを後払いにできるので、お財布はロッカーに入れたままで大丈夫です。その利便性の高さをお客様に喜んでもらえたこともあり、手応えを感じています。

—今年の成果としては、いかがでしたか。

『SnSnap』に、想定以上の利用者が出たこともあり、SNSでの共有や拡散も想定の5倍になりました。また、来場者数以上に由比ガ浜という華やかな場所と海をエンジョイする活気ある若者の雰囲気のなかで、レノボブランドを認知していただいたことは、ブランド構築という意味でも大きな成果につながっていると考えています。また、『おもてなしプラットフォーム』のプレ実証実験としても、期待どおりの成果を上げることができました。

—本施策は、今後の御社の事業にどのような効果を見込めるのでしょうか。

当社は、今年の秋から、スマートフォンの販売を始めることもあり、若い人の認知度をますます高めていくことは、ビジネスの上で必要なことだと捉えています。この視点でいくと、『レノボ・ハウス』で、若い方が示してくれた、レノボブランドに対する反応は、今後のマーケティング活動で大いに活かしていける知見になりました。

—今後の予定を聞かせてください。

来年も『レノボ・ハウス』をオープンするのかは、未定ではありますが、いずれにしても単純なマス広告を打つのではなく、「またレノボがおもしろいことをやっている」と言っていただけるような、サプライズを実現したいと思っています。

レノボ・ジャパン株式会社 コンシューママーケティング担当部長 宮田弘之さん

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