海外でも広がる地域PRムービーを作るには。市民1,000人×「さげもんガールズ」福岡県柳川市のケース

Case: 福岡県柳川市 PRムービー「SAGEMON GIRLS」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、1,000人を超える市民を動員して作られた、福岡県柳川市のPRムービー「さげもんガールズ」について取り上げます。企画・制作の意外な経緯から、PRムービーに込められた想い、ダンスチーム「さげもんガールズ」の結成、そして予想を超える海外からの反響まで、株式会社ティーアンドイー プロデューサーの肥後岳志さんと同社 ディレクターの井上拓馬さんにお話を伺いました。

Interview & Text : 坂巻 渚
ひょんなことから生まれた、柳川市のイメージ覆すユニークな企画案。

—柳川市のPRムービーにはどのような経緯で携わられることになったのでしょうか?

肥後:柳川市がホームページ上で、柳川市PR映像を制作する業者を一般公募しており、興味があって手を挙げたのが始まりです。以前から柳川市ではCMの撮影をしたことが多々あったので。当初柳川市は、柳川を舞台とした情緒的なストーリー性のある企画を求めており、そのトーン&マナーにあわせて私たちも企画書とビデオコンテを作成し、プレゼンを行いました。プレゼン当日は資料に基づき、企画の説明をしたのですが、途中で「こんなPRムービー、誰が見るんだろう?全然面白くない…」と感じてしまって。

せっかく最後までプレゼンさせてもらったにも関わらず、最終的には「こんな企画は面白くないです。どうせやるなら、柳川市のイメージを180度変えるような、そしてもっと話題になるような企画を一緒にやりましょう!」と言ってしまいました。市の方からしてみれば、そういう企画を始めから持ってこいという感じですよね(笑)。

—なかなか聞いたことのない展開ですね(笑)。柳川市の方はどのような反応をされたんですか?

肥後:今回の企画はコンペだったのですが、最後の最後で自ら作成した企画を全否定するかのようなプレゼンをしてしまったので、「絶対に負けた…」と思っていました。ただ市の方々には、逆に面白く思っていただいた様で、「ぜひ今回の企画をお願いしたい。話題になるような企画の提案を再度お願いします!」とお電話をいただいたんです。嬉しかったと同時に、「本当に勝っちゃったの!」と信じられない状況でした(笑)「もちろんです!」と強気で答えたものの、その時は当然のことながら企画はゼロベースでした。

—嬉しいやら、ビックリするやらですね。また一から企画を考えられたのですか?

肥後:はい。お電話をいただいてから、改めて企画を考えるために、まずは一人で柳川市に行って、1日そこで過ごしてみました。行ってみて気づいたのですが、柳川市は観光名所として知られてはいるものの、歴史的建築物・川下り・ウナギ等のイメージが先行しているからか、観光客の年齢層が圧倒的に高いんです。また柳川には、有名なお土産の一つとして「さげもん」という吊るし飾りがあるのですが、おみやげ屋さんで売れ行きを伺った所、実際そこまで人気のある商品というわけではないとのことでした。実際にそこで時間を過ごしてみないと分からないものですね。

<柳川市の名産品「さげもん」>

—意外な発見が色々とあったのですね。実際に柳川で過ごされたことが、今回の「さげもんガールズ」のアイデアにつながったのですか?

肥後:今回のPRムービーは主に海外向けということで、「若い世代向け」+「さげもん」+「海外を意識する」という3つのキーワードがあったのですが、柳川市に行ったことで、その3つから「さげもんガールズ」という言葉がポンっと出てきたんです。
日本人の女の子には、世界的に見て「独特の可愛いさ」があるので、せっかくなら可愛い子たちに出演してもらって、柳川で何か面白いことができたらと。「さげもんガールズ」という言葉も、なんとなく「ドラえもん」に似ていて、海外でも親しみを持ってもらえるのでは、と感じました。

そこでまず、弊社のディレクターの井上に、「さげもんガールズを使った企画を3日間でお願いね。」と無茶振りをしてみたんです(笑)井上自身、ダンス映像が大好きなこともあり、そこからどんどん企画に色を足していってくれて。最終的には、今回の企画にまで作り上げてくれました。

<実際の企画書の一部>

海外向けを意識。映像を見ただけで伝わる柳川市の魅力。

—企画のコンセプトはどのようなものだったのですか?また、また、制作で特に意識されたことがあれば教えていただけますか。

井上:コンセプトは「小さな町が世界を驚かせる」です。観光地や食べ物はもちろん、さげもんガールズのファッションも含め、映像を見ただけで、その人が魔法にかかったようなファンタジーな世界作りを意識しました。ナレーションやセリフ構成にすると、見る人の体力も必要になってしまうので、とにかく映像を見れば全てが伝わるようにするという点を大切にしました。まさに、「百聞は一見にしかず」ですね。

—海外の方にもとても分かりやすそうですよね。

井上:はい、今回のPRムービーは、主に海外へ向けての映像という事だったので、ナレーションやコピーは一切入れませんでした。ムービーのラストにも、コピーではなく、柳川市に古くからある河童伝説の「河童」を入れたくらいです。
あとは、海外向けということで、英語、中国語、韓国語バージョンも作らなければならなかったということもありますね。海外の方にも分かりやすい映像ということを心掛けました。

<相撲ドーム「雪龍の郷」でのお相撲さんとのダンスシーン>

<柳川名物の鰻のせいろ蒸し>

—ムービーには1,000人を超える市民の方が出演されているということですが、この構想は最初からあったのですか?

肥後: 井上とも話していたのですが、柳川市民の方々と話しているうちに、市民の方々の「柳川市を盛り上げたい」という熱量がものすごく大きいということを感じたんです。その盛り上がりをなんとか映像化したいと思ったのですが、そのためには柳川市民の方々を巻き込むことが必須でした。我々はあくまでそれをサポートする裏方であって、当事者は柳川市民の方々ですからね。正直、人数も集まらないかもしれないと不安だったのですが、柳川市の企画担当の方々が本当に頑張ってくださいました。

こういう企画の場合、制作スタッフが市民の方々に説明をしにいくと冷ややかな反応をされる事があるのですが、市の方から直接話していただくと話も早いし、同じ柳川市民という信頼もあって、皆さん快く協力してくださるんですよね。市の方々の尽力のおかげで、1,000人という大勢の方々に参加していただくムービーを実現できたと感じています。

<市民が一丸となって踊ったエンディング>

—今回のために結成されたダンスチーム「さげもんガールズ」はどのように選ばれたのですか?

肥後:オーディションで決めていったのですが、ダンスが踊れるかどうかということは一切無視しました。ダンスについては、今回振付けをお願いした「振付稼業 air:man」 さんがなんとかしてくれるだろうと思い(笑)、頻繁にメディアに出ている人というよりは、初々しさが残っているような方をイメージしていました。

実際に選ばれた彼女たちも、オーディションの時でさえ、きょとんとしたり、戸惑っているような感じで、そこがまたよかったんですよね。彼女たちの成長度合いが目に見えて分かることで、やりがいを感じそうでしたし、初々しい反応がかえって新鮮で面白くて印象に残りました。

「柳川市に行きたい」という声、続出。予想を超える海外からの反響。

—ムービーはSNS上でも話題になっていますよね。海外からの反響も大きかったのではないですか?

肥後: はい、特に海外からの反応がすごいですね。台湾の旅行メディア「旅飯 Pan Travel」では、ムービー公開日の2月8日にサイトとFacebookページで動画を取り上げていただいたのですが、その翌日には動画再生回数が25万回を超えていました。現時点で、旅飯さんを通した動画の再生回数は70万回を超えている状況です。あとは中国のWEIBOでの反響もすごいですね。動画に対してのシェアが49000件、コメント数が7千件超えで、しかもそのほとんどが「柳川に行きたい」「さげもんガールズ可愛い!会いたい!」という反応ばかりです。

<台湾の旅行メディアのFacebookページ>

<中国WEIBOでのコメントの一部>

—すごい盛り上がりですね!特に嬉しかったコメントなどはありますか?

肥後:こういう動画は意外と賛否両論あったりすることが多いのですが、この動画に至っては、ありがたい事に「賛」の声が多いです。最初は批判してもらう事で炎上して拡散されるのでもいいかな、とも思っていたのですが、本当に批判がなくて。「柳川に行きたい」というコメントが多く、反響は想像以上でした。当然動画を作ることがゴールではなく、動画を見てもらって「行きたい!」と思ってもらうことがゴールなので、そういったコメントは本当に嬉しかったです。

あとは、音楽に対するコメントも結構多かったですね。私は幼い頃からずっと音楽をやっていた事もあり、元々この映像業界に入ったのも音楽に携わりたいという想いが強かったんです。今回の作曲についても、RiZ☆Zunさんと私とで一緒に行ったのですが、やはり自分が製作した曲を褒められるのは、個人的にも、ものすごく嬉しかったですね。

—「さげもんガールズ」の皆さんも反響の大きさに驚かれていたのではないですか?

肥後:そうですね。彼女たちはプライベートでツイッターをやっているのですが、フォロワーがものすごく増えたみたいです。フォローしてくるのは圧倒的に中国や英語圏の方々が多いみたいですね。コメントも中国語等できているらしく、「解読できない」と言っていました(笑)

—最後に、地方の魅力を伝える動画をつくられる際に、特に意識している点があればお教え頂けますか。

井上:自治体の動画を作る際は、突拍子もない企画で攻めるのも、もちろん良いと思いますが、それだけではなく、丁寧にしっかりとその場所の魅力を伝えることも同じくらい大事だと思います。

今回の場合だと、単に「柳川には、こういう可愛い女の子たちがいますよ」ということを伝えるのではなく、主人公はあくまで「柳川の景観、食べ物、柳川市民の皆さん」であって、その主人公をより魅力的に表現するサポート役として「さげもんガールズ」が存在する、ということは常に意識しながら構成しました。

株式会社ティーアンドイー プロデューサー 肥後岳志さん(左)
株式会社ティーアンドイー ディレクター 井上拓馬さん(右)
さげもんガールズの皆さま(後方)

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