音楽アプリ「UBiO」〜音響メーカーがアプリに進出してApp Store1位となるまで

Case: サウンドサイエンス「UBiO」

話題になった(=「バズった」)日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、創業以来音の信号処理・自社カーオーディオブランドで蓄積した技術を、より多くの人に音楽を楽しんでもらえるようアプリでの音質提供を実現したという「UBiO(ユビオ)」を取り上げます。音響メーカーが何故アプリをリリースしたのか、そしてApp Store内ランキング1位(有料アプリ)となった際に仕掛けたPRとは。サウンドサイエンス株式会社 UBiOプロジェクト・マネージャー 角元 総一郎さんに伺います。

Interview & Text : 市來 孝人
リリースしてわかった、iOSユーザーとAndroidユーザーの違いとは

—まずは、アプリの特長をお教え下さい。

「UBiO」は高音質での音楽再生ができるアプリケーションです。ボーカルの帯域を崩さず音源に近づき楽器の音を際立たせること、2D Padによる簡単操作で低音域・高音域を好みに簡単調整できることが特長です。

—アプリ制作に進出した狙いは何でしょうか。

弊社はメーカーへの音質提供・コンシューマ向けのカーオーディオを中心に事業を行ってきました。車の消費が減少傾向にあること、新しい提案をしないといけない転換期でもありました。消費者の生活スタイルに近いところを入口にしたいという狙い、サービス開始までの時間・コスト・リスク、弊社のような小さな会社がチャレンジするにはアプリという方法が最適でした。

—この春、Android版リリースのタイミングで“すでにリリースされていたiOS版がランキング1位になる”という現象が起きましたが、このタイミングでAndroid版を出そうとした理由は何でしょうか。

iOS版「UBiO」もアプリとして熟成してきてサポート体制も整ってきたという点が大きいです。Android版に手を広げてもすぐに対応出来るなと。(iOS版のランキングで1位という現象については)ある程度伸びることは想定していたものの大変嬉しい結果でした。

—iOS版とAndroid版を両方リリースして、各ユーザーの特性などは感じられましたか。

正直な所「こちらはこう」という程、具体的なところまでは掴めていないですが、「ダメ」な点として、「同じじゃダメ」という点は分かってきました。例えば、再生環境ひとつをとっても純正の音楽アプリはiOSだとひとつ、Androidの場合は様々ですし、AndroidユーザーはiOSユーザーよりも楽曲の整理の方法・ファイルフォーマットなど、あらゆる面で個人差があるように感じます。

—音楽アプリ全体の動向についても教えて下さい。

国内・海外共に無料で音楽をダウンロードできるアプリは人気がありますね。常にランキングで上位にきています。個人的な意見ですが音楽は買ってほしいとは思いますけれども、みんな音楽聴きたいんだ、音楽好きなんだという限定した観点では、何だかうれしい気持ちになります。

イコライザーアプリはUBiO以外にも多くあり、BBE社のSONIC MAXは独自の音質パラメータを持っていますし、イヤホンメーカーと共同でアプリを出したり個人的にアプリとして好きですし、ビジネスもうまいなーと。音楽関連アプリの動向は日々チェックしています。

一方イコライザーって何?音質って何?と違和感がある方が少なくはありません。潜在マーケットは非常に大きいのですが、実際のマーケットは小さいのが現状です。このマーケットを広げるためにもPRには積極的に取り組まなければと思っています。

コミュニケーション文脈の検討や比較動画の制作。積極的に「良さを理解してもらう」取組みを実施

—Android版リリースの際、アプリのPR面も強く意識されたそうですね。

2012年秋のiOSリリース時からPRは継続的に実施してきました。意識調査を交え、現代の音楽リスナーの実態などと共にPRを実施した際にもApp Storeで一位になったことがあったので、アプリの存在に気付いてさえもらえれば興味を持ってくれる層が一定数いることは確信していました。

今回のAndroid版PRではユーザー毎に音楽再生環境が異なるため、「UBiO」で改善できる点を中心にコミュニケーション文脈の方針を決め、Androidユーザーを意識しすぎずに、「全スマホユーザー」に向けてアプリの魅力を伝えようと。その結果「UBiOがスマホに対応完了」にという見出しをつけて頂いたメディアもあったので、iOSユーザーにとっても「自分たちも関係ない話ではない」と思って頂いたのだと思います。最終的には有料アプリ全体でランキング1位となり、DL数も3.5倍(前月比)に跳ね上がりました。

—メディア露出を見ていると、音楽アプリの中での比較だけではなく「イヤホンを買うくらいなら、アプリで500円だからお得」といった、アプリ以外との比較文脈の記事も見受けられました。こういったメッセージも元々狙っていた点なのでしょうか。

ターゲットを「もの凄く音楽が好きな層」と「やや音楽が好きな層」に分け、それぞれに対して響くメッセージは意識して考えました。後者にとっては「アプリで500円」は高く感じるので、そこのハードルを下げる為に例えばイヤホンなど「普段の音楽の聴き方」と比較する形のメッセージも、メディアへのプロモーション時に打ち出していきました。

—アーティストのPVを活用し、使用時と使用していない時の比較動画も制作されていますね。こちらの狙いは何でしょうか。

UBiOに足りていないのは、コンテンツ(楽曲やミュージックビデオ)との距離でした。コンテンツとUBiOを一緒に楽しんでもらって、双方の良さを知ってもらえたらいいなと思い制作しました。

「UBiO×The Keys」UBiOの音質改善技術を体験 vol.3 from SoundScience on Vimeo.

—アーティストさんには直接お声掛けをしたのですか。

はい、直接です。個人の趣味(笑)と、UBiOを使ったとき(ON)と使っていないとき(OFF)の違いが良く分かる、好き嫌いのないイメージの楽曲であることを意識しました。

—動画の効果はありましたか。

この動画を制作したことで気軽に試聴出来るようになったことが大きいです。Vimeoを使用しているので3G回線でも問題なく、電車の中でつり革を持ちながらでもUBiOの音質変化が体感できます。アプリをダウンロードするまでの新しい導線を作れたのではないでしょうか。

ー今後のアプリの展開をお聞かせ下さい。

まずは今のユーザーの満足度を上げること。それから海外進出ですね。まだ挑戦したことがないのでまずはチャレンジしてみたいです。マーケットが大きいアメリカを狙いたいと思っています。

—「将来的に音楽業界をこうしていきたい」という思いもございますか。

多くの人が音楽を通じて「楽しんだり」「励みになったり」「成長したり」「だれかとつながったり」という経験をしていると思います。ちょうど今このアプリの他にも、「音楽を通じて若者の素晴らしさを社会に訴える」という教育プログラム(「ヤングアメリカンズ」のジャパンツアー)を音質の面からサポートするという取り組みも予定しています。

そしてUBiOができることは、音楽を聞く環境を今よりも良くすること。より音楽を楽しんでもらうこと。それ以外のことは考えないようにしています。それがきっかけで、イヤホンを買い替えたり、ヘッドホンを買ったり、ライヴに行ったりというつながりができれば幸せです。

【Interviewee】

サウンドサイエンス株式会社
UBiOプロジェクト・マネージャー
角元 総一郎さん

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