コンサルから「春水堂」に転身 タピオカティーブームの先駆者に聞くPR展開の変遷
Case:春水堂
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・PR事例の裏側を、担当者へのインタビューを通し明らかにする連載「BEHIND THE BUZZ」。
今回は、1983年創業・台湾で50店舗以上を展開し、2013年に日本に上陸したお茶専門カフェ「春水堂」のPR戦略を取り上げます。
話をうかがったのは株式会社オアシスティーラウンジ/株式会社オアシスティースタンド 代表取締役 木川瑞季さん。マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の木川さんは、台湾勤務時に「春水堂」のお茶を知り、「春水堂」の日本上陸にあたり転職。日本でのブランド展開に携わってきたという経歴の持ち主。「タピオカミルクティー発祥の店」の仕掛け人として昨年は多くのメディア露出も。
タピオカブームが起こる前から日本でどのようにブランドを認知させてきたか、また、コンサルティングファームから転身しどのようにPR戦略を組み立ててきたかをうかがいました。
日本上陸後、順次打ち出していったキーワードとは
―「春水堂」は2013年の日本上陸以来、PR展開にあたってはどのようなキーワードを打ち出していったのでしょうか?
木川:
「春水堂」は日本に進出して7年目ですが、どうやって(ブランドや業界の)一個一個の段階を追っていくかを考え、受けるキーワードを一つずつ打ち出してきました。当初は「台湾スイーツ」「台湾カフェ」などと打ち出しながら、2017年ごろから「タピオカミルクティー」のブームが来たなと、タピオカミルクティー発祥の店であることを全面に押し出しました。
(タピオカブームの前は)一ブランドでいくら頑張っても店舗数も少ないですし、最初は台湾カフェ・スイーツの一つとして知ってもらおうと考えました。タピオカのお店が多く日本に入ってきたのは2015-16年ごろですが、マンゴーかき氷やパイナップルケーキなど、台湾スイーツのお店はそれよりも少し早く日本に入ってきていたんです。
そんな中で2014年に打ち出した「台湾スイーツ」というキーワードは、「ぐるなび旬ワード」などにも入るなど話題となりました。複数のプレーヤーがいると、お客様にとって「台湾スイーツ」というカテゴリが成立しますから、その中の選択肢の一つとして関心をもってもらえないかと最初に考えました。
―そこから「タピオカ」切り口を打ち出したのはいつ頃でしょうか?
木川:
2015-17年ごろに「Gong cha」さん、「THE ALLEY」さん、「CoCo都可」さんなど大型のブランドが日本に上陸し多くの人が並び始めた時に、「あ、タピオカくるかも」と感じました。そこが初めて、シンプルに「タピオカミルクティー発祥の店」とだけ伝えてもお客様がわかってくださるタイミングでした。実は、2013年の日本上陸当時弊社は「お茶専門カフェ」と言っていたのですが、その当時はまだ早かったのです。
―「タピオカミルクティー発祥の店」という点を前面に打ち出す中で、変えたことやこだわっていることはありますか?
木川:
プレスリリースや看板も全て変えています。ただ、「いいお茶を出す」というところだけはブレないようにしています。(ブームの中でも)なぜ商品が受けていますかと聞かれると、「お茶がおいしいからです」と答えています。
500円を払い続けられる飲み物として認知されるためには、絶対にベースとなるお茶が美味しくないといけません。私も、コーヒーでいうスターバックスさんのような世界観があるオンリーワンのブランドだと思っているからこそこの仕事をやっているというぐらい、自社のお茶は好きですから。
―その後、現在は「タピオカミルクティー」に限らず、「アレンジティー」というキーワードを打ち出しているそうですね。
木川:
ここからようやく「アレンジティーのブランドです」と言えるようになったと思っています。もともとタピオカミルクティーはアレンジティーの一つで、アレンジティーのバリエーションはとても広いです。(タピオカミルクティーの普及で)これからお茶の飲み方が多様化すると思っています。
お茶のカテゴリで、これまでスターバックスさんのようなお店がなぜできなかったかというと、500円の商品をつくるためにはストレートのお茶ではだめだったんです。コンビニエンスストアでペットボトルの商品もあり、130円ほどしかお金を出さないものです。ここにアレンジティーというカテゴリができると、中にタピオカを入れたり、ミルクをしっかり入れたり、おいしいラテにしたりと商品価値が上がる商品になります。ようやくこのカテゴリが出現したというところです。
―コンサルティングファームからの転身ということが、PR戦略の検討に活きた点はありますか?
木川:
それまで広報はやったことはなかったですが、経営コンサルとして携わってきたマーケティングの一環として広報はどうしたらいいのかという理解がありました。
コンサルティングはそれまで知らなかった業界でもお客様の要求が激しいので、クイックラーニングと呼ばれており一ヶ月・二ヶ月で(その業界について)学ばなければいけません。早く学んで、学んだことのPDCAを回して、半年ぐらい経ったときにはモノにしてお客様の知識をある意味超えていかないといけない、そんな仕事の仕方を10年間叩き込まれていました。どうやってこのお茶のブランドをマーケティングすればいいのか、マーケティングの観点では広報をどうしていくか、と考えていきました。
行列が話題となる中「並ばなくていいですよ」というメッセージ
―タピオカブームの現状はどのように捉えていますか?
木川:
ある程度ブームになることは私たちにとってもいいことです。どんなにうちが「良いブランドです」と言っても、ワンブランドでは認知度は上がらないですし、良いブランドがいくつか揃うことによって自社のことを言えるようになります。また、ブランドが競うことでお客さんの選択肢も広がりますし、「どこに行った?」という会話にもなりますし、業界が成立します。
ブームになったことで弊社も売り上げは上がりました。また、来店される方も元々多かった20-40代の女性だけではなく、10代の女性も来られるようになりました。たくさんの方に飲んでもらうことはもちろん嬉しいですし、行列こそが人気店の証という考えもありますが、例えば、スーツを着た男の人が一人で並ぶのは恥ずかしいと思われるというような変化もあります。
ブームになりすぎるとちょっとアンチになる人が出てしまったり、遠のいたり、誤解されたりというリスクがあります。世間的に行列の頂点は昨年の夏だったと思うのですが、そんな時に、なるべく早く元に戻そう、いろんな方に飲んでもらおうと、モバイルオーダー「スマタピ」をリリースし、「並ばなくていいですよ」というメッセージを打ち出しました。
―「スマタピ」の発想のきっかけは何ですか?
木川:
おととしに上海へ視察に行った時、コーヒーもティースタンドもお店に行って買うのではなく事前にオーダーしてピックアップするという商習慣になっていたことです。スーパーマーケットも、モバイルでオーダーしてバイクで届けてくれるような形になっていました。
―おととしには「タピオカミルクティー協会」も設立されていますね。飲み歩きから発生するごみ問題対策としてのごみ拾いなどの活動を、SNSでも積極的に発信されている印象です。
木川:
ごみ拾い活動は「春水堂」のタピオカミルクティー好きな女性が中心となり、最近は親子でのご参加、中学生の参加も増えています。また昨年6月ごろから(容器の)環境を配慮するニュースが多くなったことから、学生さんの関心が高まっています。そこで春水堂のストーリーを聞いてお茶自体に興味を持ってくださった方も多く、春水堂が主催したお茶セミナーにまで参加してくださる方もいます。
―現在、新たな展開として予定されていることがあれば教えてください。
木川:
「春水堂」が大事にしているお茶の品質・空間・サービスをみなさんと共有させていただきたく、店舗でお茶に絡めた様々なワークショップを開催予定です。また、春水堂ではお客様をお迎えする空間を彩る生け花を店員自らが生けており、日々の生け花を紹介するインスタグラムも開設(@ikebana_chunshuitang)しましたのでぜひ見ていただきたいです。
木川瑞季さん
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