アムネスティ・インターナショナルによる実験動画 シリア難民の過酷な記憶を、催眠術で疑似体験

Case: Through the Eyes of a Refugee

欧州を中心に、世界的な関心事となっている難民問題。シリアやアフガニスタンなどの国から戦火を逃れてきた人々が、助けを求めてヨーロッパの国境に押し寄せています。

しかし生まれ育った祖国を離れ、やっとたどり着いた先では、受け入れに対する地域住民の反対に逢うことも少なくありません。

そこで世界的人権保護団体のアムネスティ・インターナショナルは、難民を受け入れることに批判的な考えを持つ人に見てほしいと、1本の動画を公開しました。

これは、オランダとドイツに住む様々な年代の男女5人が参加した実験映像で、シリア難民である一人の女性の経験を、催眠によって疑似体験するというもの。薄暗い部屋に案内されると、療法士の誘導に従い、ゆっくりと催眠状態へ入っていきます。

以下は催眠にかけられた参加者たちの様子。療法士が話す言葉を、まるで本当の光景として見ているのでしょうか、恐怖に怯え、逃げまどい、苦悶の表情を浮かべます。

「内戦が始まって数週間。あなたが仕事を終えて家に帰ると、突然外で銃声が響きました。」

「どんどん近づいてくる発砲音。やがて大きな爆発が起こり、気が付くと瓦礫の下には幼い妹と弟の変わり果てた姿が。」

「3ヶ月後、家族を失ったあなたは国を離れる決心をします。炎天下のなか、ガソリンの臭いが立ち込める古いバスに乗っていると、どうやら警察による検問があるようです。」

「恐怖とパニック状態で逃げ出す乗客。あなたもその場からなんとか逃れ、8日間彷徨った後に、ヨーロッパへ行く小さなボートに乗ることができました。」

「容赦なく打ち付ける波は凍えるほど冷たく、ただ震えながら耐えるしかありません。」

「ふと顔を上げると、近くにもう1隻難民のボートが。しかし何か揉め事が起こったのでしょうか、一人の男がおもむろにナイフを取り出し、ゴムボートを突き刺したのです。」

「助けを求め、泣き叫びながら沈んでいく人々…」

「やっとたどり着いた難民キャンプは、人が住むにはあまりに劣悪な環境でした。何日も飲まず食わずで過ごしたあなたに与えられたのは、腐った食べ物。」

「とうとう体調を崩してしまったあなたに、ついに希望が訪れます。ギリシャの支援団体が、オランダへの難民申請を手配してくれたのです。そして今、あなたは安全な生活を手に入れることができました。」

と、ここで催眠が解かれます。

信じられないといった様子で呆然とする参加者たちの前に現れた、一人の女性。彼女こそが、たった今見た壮絶な出来事を実際に体験した本人だったのです。

「辛かったでしょう?」「これからは安全に暮らせますように。」皆そう言って、涙ながらに女性を抱きしめます。

彼女だけでなく、祖国を離れヨーロッパへと渡った人の多くは、きっと同じような経験をしているに違いありません。その辛い記憶を疑似体験することで、他人事ではなく、自分事としてとらえてほしいと願うアムネスティ・インターナショナルの取り組みでした。

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