タクシーが“本のない図書館”に変身!音声コンテンツ認知のためのオトバンクのストーリー設計とは

Case:『audiobook.jp ×日本交通 本のない図書館タクシー』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、オーディオブックの制作・配信を行う株式会社オトバンクと、日本交通株式会社による、第72回読書週間に合わせて実施された、期間限定・車内にいながらオーディオブックで存分に読書を楽しめる特別なタクシー「audiobook.jp ×日本交通 本のない図書館タクシー」を取り上げます。

10月29日(月)から11月11日(日)まで東京23区、武蔵野市、三鷹市エリアを運行。乗車時にタブレットを貸与することでオーディオブックを体験、くつろげるオリジナルクッションを設置、3台中1台のみ乗務員が書店員の格好をしたラッキータクシー仕様、などといった施策を展開。つまりオーディオブックを通して本を楽しめる図書館となったのです。

この施策を実施した経緯や成果について、株式会社オトバンク 広報 佐伯帆乃香さん、日本交通株式会社 メディア開発部エグゼクティブプロデューサー 金高恩さん、株式会社goodstory Story Designer 山田泰裕さんに伺いました。

Text : 市來 孝人
企画を設計する上での3つのポイント

―企画が立ち上がった経緯について教えてください。

佐伯:
オトバンクでは、耳で聴く本「オーディオブック」のサービスを2007年から提供してきました。これまで、コンテンツの拡充を中心にサービス拡大を続けてまいりましたが、スマートフォンの普及などデバイスの進化などに伴い、ここ数年ユーザー数が激化しています。そんな中、オーディオブックがまだまだ一般的ではない日本国内において、オーディオブックが持つ「耳のスキマ時間の活用」と、その利用シチュエーションの認知を広げる活動の必要性を感じて、これまで意識調査やイベントなどを展開してきました。今回もその一環として、オーディオブックの利用シーンで最も多い「移動時間」の利用訴求を目指し企画を実施いたしました。

―今回、企画の細部でこだわられた点はありますか?

山田:
まずは、オーディオブックというものを楽しんでいただくシチュエーションを想起してもらえること、そして、容易に関与してもらう、”参加のハードルを下げること”にありました。主に下記の3つのポイントで企画を設計しました。

audiobook.jpのサービス特徴が伝わるかーー「本が手元になくても、大量の本が読める」「手元に本を置かずに、本を読める」というサービスの特徴を伝えるため、そのユニークさをうまく可視化できるシチュエーションを考えました。また、移動中に利用するユーザーが多いというaudiobook.jpの特徴から、「移動中」であることが一目でわかる場所を探しました。

人から人に伝えたくなる要素を組み込めているかーー「車の中なのに図書館として本が読める」というギャップを軸に、車内での体験を設計していきました。まず、「本のない図書館タクシー」と銘打っていることもあり、現実の図書館と同じような体験ができるかと考え、図書館員を想起させるために、乗務員さんにはピンクのエプロンを着ていただきました。また乗車してくれた方には、図書館利用カードを配布し、audiobook.jpのサービスにアクセスするための導線を作りました。さらにくつろいで車内体験をしてもらうために、少し大きめのクッションを用意しました。また、車内のタブレットアプリもオリジナルで作りました。audiobook.jpのコンテンツの幅広さを知っていただくために、「ビジネス・自己啓発」「小説・エッセイ」「ちょっと役立つ話」の3カテゴリーで各10作品ずつ収録。その中に、有名声優が読んでいる作品も収録し、そのファン層からの話題化も狙いました。

「なぜ今やるのか」というストーリーの設計ができているかーーaudiobook.jpのユーザー調査で、オーディオブックを聴くと原著を読みたくなるというユーザーの声があることから、オーディオブックは、書籍との相性が良いということはすでに把握していました。その上で、10月27日から11月9日まで「読書週間」という長く続いている行事があること、そして、社会的な課題でもある「読書離れ」という現象があることから、そこに「車の中では本を読めない人がいる」という「プロダクトインサイト×ソーシャルインサイト×ターゲットインサイト」を掛け合わせたストーリーを設計していきました。また、タクシー業界の中で、革新的な取り組みを行っている日本交通様と一緒に展開していくことで、社会的な注目を集めることを考えました。

―収録されたコンテンツはどのようなターゲットを想定していたのでしょうか?

山田:
タクシーはビジネスパーソンが利用しているというイメージですが、実際には近年子育て層や学生、シニア層の利用も多いという情報がありました。そのうえで各層にお楽しみいただくべく「ビジネス・自己啓発」「小説・エッセイ」「ちょっと役立つ話」の3カテゴリーを基準に作品を選定しました。

―反響・成果について教えてください。

佐伯:
約400組のお客様からご予約をいただくことができました。また、男性よりも女性のお客様が多く、年齢は30代のお客様が多かった印象です。「時間も丁度よく、コンパクトにまとめられた数種類の書籍と出会う事が出来良い経験でした。」「夫が読書マニアです。しかし、年齢的に二人とも老眼。だんだん読書が苦になってきました。絶好の機会だと思い申し込みました。」といった感想がありました。

目の時間の競争は激化しているが、耳は意外とヒマしている

―音声コンテンツの、キャンペーン分野との相性について教えてください。

佐伯:
オーディオブックが最も利用されているのは「移動時間」ですが、ほかにも入浴中や家事の最中などさまざまなシーンで“ながら”で楽しまれています。スマートフォンの普及により視覚情報は激増しており、目の時間を抑える競争は激化していますが耳は意外とヒマしています。音声であれば、目の時間を抑えるのが難しい方に対してもうまくアプローチすることができるのではないでしょうか。

―タクシーの広告媒体としての価値について教えてください。

金:
タクシーは乗車と降車時は忙しく、乗車中の時間は意外と手持ち無沙汰になることがあります。お客様の乗車時間は平均18分ですが、日本交通ではこの乗車時間を読書時間・美容ケアの時間・くつろぎの時間など、単なる移動時間ではないものに変換するべく、新たな価値を提供する取り組みを常日頃行っています。車両のラッピングや行灯のカスタマイズといった外観はもちろん、後部座席に設置された車載タブレットでの動画放映、乗務員からのサービスやサンプリングと、一方的な視聴だけでなく実際に体験していただくという、複合的なアプローチを行っています。タクシー車内というプライベート空間だからこそ、乗車されたお客様に深いブランド体験をしていただくことができ、商品理解を促進することができます。また、お客様にとっても移動に新たな価値を提供することができています。

―今後の展開があれば、お教えいただけますか?

佐伯:
移動時間のエンタメ化はこれまでにも国内外の航空機や高速バスとの連携などで進めてまいりましたが、今回、タクシーとの連携も好評いただきました。今後、さらに細分化した移動時間での利用訴求を広げていければと考えています。

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